嘘つきには甘い言葉を
「お味噌汁冷めちゃったよ」
「ふわぁあ、俺、朝は弱くて……」
とろんとした瞳はやっぱり妙に色っぽい。セットされてない髪も見慣れなくて落ち着かない。

「ん? また俺の事好きって顔してる」
してない、もん。
でも隼人さんが朝は弱いなんて初めて知った。こうしてもっと隼人さんの事を知りたいな。
格好いいところも格好悪いところも全部知りたいと思うし、私の事を知ってもらいたいと思う。

「嘘つき。ばればれだっての。素直に言えるまで、お仕置きが必要だな」
私に覆いかぶさった隼人さんの唇が近づいてきて、私の唇を奪う。艶めかしい水音を立てて何度も何度も重なる。角度を変えて繰り返される口づけに、酸欠になった頭は蕩けそう。
こんなに気持ちいいこと、お仕置きにならないよ……。

「桜、可愛い」
甘い声と甘い行為が始まって、朝ごはんはまた遠ざかっちゃったみたい。

ピーンポーン
甲高い音に邪魔されて、「いいとこだったのに」って不機嫌な隼人さんが玄関に向かった。
……邪魔されたというか助けられたような……。
隼人さんと抱き合うのは心地よくて、幸せで。
でも同時に恥ずかしさとドキドキがいっぱいになって自分が自分じゃなくなるみたい.

もうちょっと時間をかけないと慣れそうにないから、今日はもう十分なのが本音。

それにしても誰だろ?
ベッドの端で服を整えていたら、能天気な声が聞こえてきた。

「おはよ。お、やっぱ桜泊まってたのかー。お前今日バイト休みだろ?
俺も。遊びに行こうぜ」
「もー、龍ちゃん。隼人さんめちゃくちゃ迷惑そうじゃない。だから邪魔しちゃダメって言ったのにー」
「大丈夫、大丈夫。お邪魔しまーす」

私のいる部屋を通り抜けて軽やかな足音が遠ざかって行くのを、「大丈夫じゃねーよ」って隼人さんが追いかける。
迷惑そうだけど、ちょっと笑いを含んだ楽しそうな声。

「旨そうな飯、あるじゃん。いただきまーす。お、その上これって、チョコレートだよな?食っていい?」と龍君。

「馬鹿。いいわけないだろ」怒った声の隼人さん。

「まぁまぁ、チョコレートは置いといてやるから、固いこと言うなよ。おっ、卵焼き旨いな。ほら、和香も食ってみろよ」
やっぱり龍くんは能天気だ。

「ほんとだ、美味しい。さすが桜ちゃんだよね」
ちゃっかり和香も食べてるんだ。ふふ。

「あーぁ、桜、お前の飯なくなるぞ」

ふて腐れた声で隼人さんに呼ばれて「はーい」とキッチンに向かうと、白い包みを大切そうに抱えた隼人さんに、おでこを小突かれた。

「ないかと思っただろ。渡すの遅ーよ!」
怒った顔も愛しい。

こういうの、すごく楽しいかも。
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