嘘つきには甘い言葉を
「……やめない」呟くと彼は「へぇ」と眉を上げた。冷静になってみると目の前のこの人も不思議な人だ。
経験のない私の想像だけど、こういうのって一回始まったら止められないものなんじゃないの? 

今夜はやりたいって言った癖に、やめたいならやめてやるなんて言う。
自分の欲望を満たす為だけに、こんなことをしてるんじゃない気がする。

「他のこと考えてんなよ」耳元で囁かれて身体が強ばった。
私、こんな形で、しちゃうんだ……。

大切に取ってきたものでもない。ただ好きになった人は私を好きになってはくれなかったし、だから彼氏が出来ることもなかっただけ。

今時高校生でも簡単にしちゃうことだって知ってる。もう、いいや。どうにでもなればいい。

覚悟を決めて目を閉じたけれど、初めてのこじ開けられる激痛に思わず悲鳴が出てしまう。

「いっ……たっ……痛いっ」
「もしかして、初めて……?」

目の前の人の困惑した表情に肯定も否定も出来なくて目を反らした。
恥ずかしさの限界は通り越したと思ったけれど、この年で初めてなんて恥ずかしすぎることなのかも……。

「初めてだからって、やめてくれる男ばっかじゃないんだぜ? お前、たかが友達の為に俺みたいなやつに処女捧げようと思ったのかよ。変なやつ。
何か……冷めた」

色っぽかった瞳は興味を失ったかのように冷たくなって、私はほとんど裸の状態でベッドに置き去りにされた。彼の背中はバスルームに消えていって、水音が聞こえてきた。

な、何だっていうの……!!

こんな状態で放置って、何だかものすごく恥ずかしくて情けない。怒りを通り越して頭から火が出そう。あんな奴の手で恥ずかしい声出して悔しすぎる。

確かに最近、好きになってはくれない人をずっと想ってる自分に嫌気がさしてた。
誰かに抱かれたら忘れられるかもなんて考えて、そのくせそんな機会を作ることも出来なかった自分が嫌いだった。
だからって……。

もうっ、考えてる場合じゃない。
シャワーの音が止む前に帰らなきゃ。

これ以上悔しくて情けない思いをするのは嫌だ。私はテストの日に寝坊した時みたいに起き上がった。
早着替え大会に出られるスピードで服を着て財布から二万円札を引っ張り出す。
ホテル代には足りないだろうけど、今私が出せる精一杯の額だ。あんな奴にお金を払うのも悔しいけれど、あいつが和香の為に取った部屋なんだから仕方ない。

今日のことは全部忘れたい。ドアを閉めたら忘れよう……。
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