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なかなか暖まらない車内。
冷えきった身体はできることなら茹でてしまいたいくらいだ。

せめても、とエアコンの吹き出し口に手を当てて指先だけでも暖めようとする。

いつだったか、伊月君に握られた指先。
・・・それを言うなら、私の全身どこでもそうなんだけど。

車内はまだ暖まらないのに体温は少し上がった気がする。

狭い車内だから、意識し出すと急に息苦しくなる。

「立ち会い、すぐ終わってよかったね」

沈黙に耐えられなくなってしまった。

「そうですね」

「まだまだいっぱい案件あるの?」

「大体のところは終わりました。面倒なところが残ってますけど、地権者と連絡つかなくてどうしようもないので」

「そっか。もう雪降るもんね」

「雪なら降りましたよ。週末に」

「え?嘘?ずっと家にいたから全然気づかなかった」

「職場がすごく寒かったので仕事になりませんでした」

「あれ?出勤してたの?風見さんは?」

言い終わる前に気づいた。

失敗した!
気まずくて顔も見られない。

「なんで咲里亜さんが知ってるんですか?」

その言葉で風見さんとのデートが事実だったとわかった。
わかってたのに、改めて落ち込む。

「奈美さんから聞いたの。奈美さんの情報源は・・・不明ってことにしてあげて」

「わかりました。風見さんとは金曜日に食事しました」

金曜日だったんだ。

それならあの後伊月君もすぐに帰ったのだろう。

どこに行って、何を話したのだろうか。
そんなこと、とても聞けるはずはない。

「そうなんだ。よかったね」

「・・・よかったのは、咲里亜さんの方でしょう?」

「何?」

「課長からいい話をされたって聞きました。おめでとうございます」

違うのに、「おめでとうございます」って言葉が痛くって言葉に詰まってしまった。

「・・・あれは、違うよ・・・」

否定したところで虚しいことだ。


伊月君は聞いているのかいないのか、ずっとむっつりと黙っていた。

そこに意味はあるのか、黙っているのはいつものことだからやっぱりわからなかった。





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