ポイントカードはお持ちですか?


私は作業着とダウンの襟を立て、一番近くのトイレに走った。


予想は見事に的中しており、首と肩と背中の中間といったあたりに赤いシミができている。

かわいらしさの欠片もない、憎しみとも言えるほどくっきりついたキスマーク。
絆創膏で隠れる程度のサイズでもない。

「ひいいいいいいん!どうしよう・・・」


あー、マフラー持ってくればよかった!



髪の毛を下ろしても隠し切れないが、襟と髪でカムフラージュして売店に急ぐ。
髪の毛がふわんと舞ってしまわないように、絶妙なスピードを維持。

就業時間中のため、運良くお客さんは私しかいなかった。

肩こり用の湿布薬と千円札を投げ出すようにカウンターに置いた。
この時ばかりは心許ないので、左手でその部分を押さえる。

「肩こりひどいの?」

売店のおばさまが気の毒そうに眉を下げる。

「はあ、まあ、なんというか、筋違い?みたいなものですか?」

「あー、首回らないのねー。わかるー。だけど若いから一日か二日ですぐ治るわよ。年取るとね、一週間近くかかるから大変!」

「はは、そうですか」

一日か二日では直らなそうな傷跡でしたよー。


おつりもポケットに突っ込んで再びトイレに走る。

本当に筋違いを起こしそうになりながら、首をひねって湿布薬を貼った。

隠れると少しホッとして、ようやく事態に頭が回るようになった。

あのヤロー!!一体どういうつもりだ!!
いたずらにしても悪質すぎる!


職場に戻ると、ヤツはしれっとした顔(いつもと同じ)で仕事に没頭していた。

まさかここで問いただすわけにもいかないので、鋭いビームを目から発しながらも自分の席につく。

「ん?咲里亜ちゃん、肩こり?」

座った瞬間奈美さんに指摘されて動揺した。

「あは・・・よくわかりましたね」

「うん。だって結構匂いが強いから。私は苦手じゃないけど、今は匂いが少ないタイプもあるのに」

「すみません。次からはそれにします」

そんなもの選んでいる余裕なんて全然なかったんだよー!




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