ポイントカードはお持ちですか?
伊月君が私の身体をギュッと強く抱き締めた。
「今更だけど━━━━━咲里亜さんが好きです」
落ち着いてクリアな日本語。
きっと今なら「愛してる!」と泣いてすがってくるトップアイドルすら、鼻息ひとつで袖にできる。
「あの日の朝は、選ぶ言葉を間違えたから」
私を支配するのは伊月君の体温と言葉だけ。
全身でそれを感じてから私も答えた。
「私も、好きです」
薄明かりに伊月君の笑顔。
あのきれいな眼球にやさしい表情が浮かんでいる。
もっと明るいところで見たかったな。
「あ、伊月君って私には笑わないよね?それが誤解した原因のひとつでもあったんだけど」
急に笑顔を引っ込めた伊月君は、恥ずかしそうに私の肩に顔をうずめた。
「咲里亜さんが近くにいると思うと、ドキドキして硬くなって何も話せなくなる。他の人で練習したら大丈夫だったけど、咲里亜さんにはやっぱりダメ」
練習・・・思い当たることはあるけど、それってずいぶん失礼だよ。
「なんだかまだまだ知らないことがありそうだね」
「一晩の時間の使い方を間違えた。あの日こうやって話していればよかった」
「今だから言えるけど、あれはあれで幸せでした」
結局私は一度も後悔していない。
これからもきっとしない。
気持ちが通じるって、幸せだ。
そんな当たり前のことが、回り道してようやくわかった。