ポイントカードはお持ちですか?
角煮と出汁巻き卵とポテトサラダと焼おにぎり、それにビールが乗ったカウンター席(つまり私の席だ)の一つ空けて隣の席に、庁舎を出る際に見かけた背中が見える。
「あれ?伊月君も来てたんだ。お疲れさまー」
挨拶だけして、泡の消えたビールを一口飲み、出汁巻き卵を頬張る。
あーおいしい!
何を入れたらこんな味になるんだろ?
きっと旦那さんの血と涙と汗だな。
ってことで私には再現不能。
一人で来る時はいつもみち子ママとくだらない話をしながら食べる。
だから、せわしなく働くママを見るだけの今日は、なんだかママに恋わずらいをしているような切ない気持ちになる。
ママの背中を見送った余韻で目に入ったのは、モサッとした横顔。
一つ空けて隣、というのは何とも難しい距離だ。
隣なら話しかけやすい。
もっと離れていたら気にならない。
今の伊月君の距離は、話しかけにくいのに気にはなる、という絶妙に面倒臭いものだ。
伊月君は黙々とハイボール(多分)を飲んでいる。
食べているのは海鮮塩やきそばだ。
どっちも頼んだことない。
「それ、おいしい?」
話しかけられると思っていなかったらしく、伊月君は一時停止した。
そして口元を手で覆って、入っていた海鮮塩やきそばを急いで咀嚼する。
「・・・はい、うまいです」
「そう」
よく考えてみると、今日のお昼も伊月君と一緒だった。
お互い暇なんだし、遠慮するのはやめよう。
角煮、ポテトサラダ、焼おにぎり、出汁巻き卵、の順に隣の席に移動させ、最後にビールを持って私自身も横にひとつスライドした。
「これ好きに食べていいから、そっちも少しちょうだい」
伊月君がうなずくのを確認して、私は焼おにぎりの皿の端に海鮮塩やきそばを少しもらった。
奥ゆかしいので、エビやホタテはさすがに遠慮してあげた。
「あ!おいしい!やきそばってソースが命だって思ってたけど、塩味もすっごくおいしいんだね」
30年生きてきてまた知らないことをひとつ知った。
最初にもらった分をすぐに食べ終えてしまい、さらにやきそばに箸を伸ばすと、伊月君は諦めたように皿ごとこちらへ押しやった。