ポイントカードはお持ちですか?
伊月君はああ言うけど、覚悟ってどうやったら決まるの?
シュートして決まるものでもないだろうし、簡単に言わないでほしい。
仕事ですか?
してます、してます。
考えごとしながらちゃーんとやってますよ。
今は休憩中。
ゆっっっっくりコーヒー淹れているだけです。
「はあああああ」
隣で深いため息が聞こえて、落とされたそよ風が台の上を滑って私の手に届いた。
「あ、良二さん、お疲れさまです。次は県税ですか?また大変なところに回されますね」
良二さんは県税事務所へ異動となった。
この良二さんの異動があったから、伊月君は止まることになったのだろう。
「そうなんだよー。やっと用地から解放されたと思ったのにさー。もうイヤッ!」
良二さんはシクシク泣き真似しながら私の肩に手を置いた。
危ない危ない。
見つかったらまた小言を言われてしまう。
私が一歩下がって彼から離れようとすると、
「良二さん、セクハラです。例え咲里亜さんが訴えなくても伊月さんに殺されますよ?」
お湯をいっぱいに汲んだポットを「よいしょ」と運びながら、風見さんがふわんと言った。
「え!?」
跳びのいた良二さんが伊月君の方を向くと、彼はものすごく冷静に淡々とまんじりともせずこちらを見ていた。
怖いよーーー!
せめてもう少し怒った顔でもしてくれないかなー。
いや、今はそれよりも・・・。
「え!?なに!?うそ!?そういうこと!?」
爆弾を落とした風見さんはササッとその辺りを拭き清めると、次の仕事へと戻っていった。
「あ!私、急ぎの提出物があったんだ!」
この後起こるきのこ雲の気配を感じて、はいったばかりのコーヒーも放り出してダッシュでフロアを飛び出す。
「咲里亜さんと伊月君って付き合ってるのおおおおーーー!!!」
背中で閉まったドアの向こうで、良二さんの絶叫が聞こえた。
・・・ま、間に合った。