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「もっと、こう、ボサーッと!ボサーッとさせてよ。昔を思い出してさ」

「特別なことしてないよ。ただ髪切っただけで」

「まったく、なんて腕のいい美容師なのよ!じゃあせめて服はこっちにしたら?」

「どうして高い服を部屋着にして、着古したスウェットで外出しなきゃいけないの?髪だって服だって、咲里亜さんが言ったから変えたのに」

「いいから!とにかく2~3週間お風呂入っていませんってくらい、世界を恐怖に陥れるイメージで小汚くして!」


付き合い出してわかったことだけど、伊月君にはブレーンがいるのだ。
幼馴染みの美容師(男性ですよ!)に髪型や服装など相談してあの大変身を遂げたらしいのだ。

私との関係がゴタゴタした時期、再び外見に気を使わなくなって戻ったものの、やはりその幼馴染みの手に掛かるとキラキラし出した。

彼氏が格好いいというのは気分のいいものだけど、外に出すのは不安だ。

私はボサボサの伊月君だってもう好きで仕方ないのだから、余計な引力は発揮しなくていい。



「昨日、課長に褒められてたね。仕事のクオリティ上がったって」

隣の市に向けて車を走らせながら伊月君が言う。

伊月君ほど美しい書類は作れないし作る気もないけど、できる範囲で丁寧な仕事を心がけている。

私の場合、手の抜き方がひどかったから、効果はてきめんだ。

「そんな褒められ方、むしろ恥ずかしいよ」

「厄介な案件引き受けて、文書もしっかりして、それで残業はほとんどしないんだから、どんどん隙がなくなるね」

「クオリティ維持したまま残業しなくなった伊月君に言われたくない」

「咲里亜さん見習って取捨選択するようになっただけだよ。残業してたら会えないから」


職場で関係を秘密にしていたので、終業後と休みの日くらいしか恋人にはなれなかった。

それは社会人ならば当然なのだろうけど、〈同僚〉としては毎日顔を合わせるから、余計にもどかしかったのだ。

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