ポイントカードはお持ちですか?
「代わりに焼おにぎりください」
「あ、どうぞどうぞ」
醤油でこんがり焼き色のついた大きなおにぎりにはまだ手を付けていなかった。
やきそばをもりもり食べた今となっては、この上おにぎりは少し重い。
伊月君はその大きなおにぎりを箸で食べつつ、出汁巻き卵や角煮もつまみ始めた。
遠慮せず食べてくれるから、だんだん居心地がよくなってくる。
「伊月君はよくここに一人で来るの?」
「いえ。今日は仕事が早く終わったのでたまたまです」
「そういえば、いつも遅くまで残業しているみたいだもんね。何?忙しいの?」
「要領が悪いだけです」
「あー、それっぽいね」
「否定してくれないんですね」
モゴモゴしているのに、しっかり文句をつけてきた。
「無駄に仕事が丁寧だなーっていつも思ってたから」
「無駄、ですか?」
さすがに口の中がしょっぱくなってグビグビとビールを流し込む。
「伊月君さ、書類に空けるパンチ穴の位置までこだわってるでしょう?」
最近気づいたことだけど、伊月君が扱っているファイルは閉じられている書類がキチンと整っている。
パンチは上下の位置に関しては同じだけど、左右の位置は違うこともある。
だから適当に綴っているとあんなにきれいにはならないのだ。
それは伊月君が同じパンチで必ず穴を開けるようにしているか、左右の位置を指定できるパンチを使っているか、とにかくこだわっている証拠なのだ。
「適当に綴じてあるとあとでパラパラめくるとき見落としがあるんです」
「それはそうだけど、だからってそこまで意識する人はほとんどいないと思うよ」
「それが無駄ですか?」
「無駄っていうか、やりすぎかな?悪いことじゃないけど、こだわり過ぎると余計な仕事が増えるでしょう?いくら残業しても足りないよ」
なんでもかんでも全力で納得いくまでできるわけじゃないんだから、取捨選択は重要だ。
ポイントポイントを押さえて悪く言えば手を抜かないとやっていけない。
パンチの穴の位置なんて、正直こだわるところじゃないと私は思う。