ポイントカードはお持ちですか?
一応褒められたにも関わらず、伊月君は淡々と付け合わせのたくあんをかじっている。
そういえば、この人の笑った顔って見たことないかも。
「咲里亜さんは前にも同じこと言ってましたね」
「そうだっけ?」
「はい。ゴールデンウィーク前くらいに」
「覚えてないなー。あの頃は異動してきたばっかりで、まだまだ毎日の仕事をこなすのに精一杯だったから。伊月君は3年目だっけ?」
「はい。今年度いっぱいで恐らく異動です」
「じゃあ、あの几帳面文書を見られるのもあと半年くらいか。寂しくなるね」
「咲里亜さんはすでに十分寂しいじゃないですか。誕生日に一人でこんなところにいて」
こっちが少し情というものを示したのに、返す刀はそれなのか!
それならこっちはもっとぬるーく返してやろう。
「寂しくないよ!お昼も今も伊月君がいるからね!『若い男子と食事』昼と夜で2ポイントだよ!」
「・・・ポイント制ですか。貯まると何になるんですか?」
「・・・100ポイント貯まったら結婚相手が見つかる。・・・とかだったらいいな」
いいなー。その制度。
そうしたら伊月君利用してガンガンポイントを貯めるんだけど。
「税込みですか?」
「ポイントだから税金は関係ないよ」
「咲里亜さんも結婚したいんですね」
「まだ諦めついてないだけ。『仕事に生きる』っていうほど仕事好きじゃないし。だけどこの仕事選んでよかった。独りぼっちでも生活の糧は得られるから」
自分や親の面倒くらいなら見られる。
寂しいけど、寂しいだけなら我慢して生きていける。
仕事があって、本当によかった。
それもなければ30を迎えて、ただただ絶望するだけだった。