ポイントカードはお持ちですか?


さほど大がかりでも難しい計画でもないので、質問も出ることなく説明会は無事に終了した。

帰っていく地権者の方たちを見送りつつ片づけていると、伊月君に一人の男性が声を掛けていた。
みんなの前で質問することはできなくても個人的になら聞きたいという心理は理解できる。


何をそんなに話すことがあるのか、という長い話を伊月君は真っ正面から聞いている。

モサッとした前髪で目元ははっきり見えないけど、口元がふんわりと微笑んでいる。
真面目だけどやさしい空気。
あんな空気で話を聞いてもらえたら、みんな話しやすいだろうなー。

伊月君って、あんな顔できるんじゃない。


思い起こしてみると、同席した用地交渉でも境界確認でも、伊月君は業者さんや地権者の方から慕われている。
仕事だってきっちりしてるから信頼もされているはずだ。

私に対しては愛想がないけど、それはまあ身内だからであって、決して居心地悪くはない。
仕事ではかなり助けてもらってもいる。

そんなことを考えながら片づけを進めて、こちらが全部終わっても男性の話は終わらなかった。

「すみません。みなさん先に帰っていてください。荷物を積んだ方の車で俺は帰るので」

伊月君はそれだけ言って、また男性に向き合った。


公用車2台で来たからそれも可能だ。
伊月君は男性の話を最後まで聞くだろうし、当然そうするべきなのだが、全員残る必要はない内容なのだろう。

「じゃあ、申し訳ないけどお先に失礼します」

課長たちはそう言って会場を出ていく。
私も一緒に帰るように伊月君は言った。
だけど、

「課長、私は伊月君と帰ります。荷物を庁舎に片づけるのも一人だと大変だし」

「いいの?じゃあ、お願いする。ちゃんと残業はつけておくから」

自分から残業を買って出るなんて異常事態だ。
だけど、見捨てて帰るなんてあまりに情がないじゃない。
私だってそこまで鬼じゃないよ。

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