ポイントカードはお持ちですか?
最初の一口は塩だけでサクサク感を楽しむ。
うわー、おいしい!
次にうどんのつゆにつけて・・・はああ、おいしい!
うどんはもはや付け合わせだね。
もうひとつは最後のお楽しみにとっておいて、仕方なくうどんをすする。
すると目の前で同じようにうどんをすすっている伊月君が目に入った。
というより、普段目に入りそうなほど伸びている前髪が今は丼の中に入りそうだ。
「伊月君、やっぱりそろそろ髪切った方がいいよ。申し訳ないけど、見ている方が気になる。これで止めたら?」
ポケットから前髪を押さえる用のクリップを取り出してテーブルの上を滑らせる。
「すみません。自分でももう限界だとは思ってるんですけど、時間がとれなくて」
「土日も仕事してるんだっけ?」
「はい。休みの日は電話とか来客がないので集中できるんです」
クリップで前髪を止めようとはしているが、慣れないからサラサラと逃げられるばかりだ。
手を伸ばしてクリップを受け取り、前髪を横に流して止めてあげる。
と、間近でバチッと目が合った。
この鬱陶しい前髪のせいでちゃんと見たことなかったけど、とてもきれいな目をしている。
いや、イケメンかっていうと違うんだけど、なんていうかにごりのない目。
もっとはっきり言うと、眼球がきれいだ。
少し青みがかった透明感のある白目に真っ黒な瞳。
目の形やまつ毛じゃなくて、眼球がきれいって思ったの初めてかもしれない。
「ありがとうございます」
声を掛けられて見惚れていたことに気づいた。
自分のうどんに目を落としつつ、毎日座ってたイスが急に変わってしまったような、落ち着かない気持ちになる。
さっきまで「前髪邪魔だよ」「身なりをもっとなんとかしたら?」って言ってたのに、他人に見せるのがもったいないなあって思えてきた。
私のものっていうわけじゃないのに。