ポイントカードはお持ちですか?



動物園のライオンがぐったりしているのはよくあることで、私もそういうライオンしか見たことがない。

だからあの「ガオー」って声を生で聞いたことがない。


同様に小鳥や犬、ネコの鳴き真似をする人はいるけど、ライオンやトラなんかの鳴き真似する人って聞いたことがない。

それって、人間の体では無理ってことなのかな?
あの地を這うような咆哮は、あの体あってのことなのだろうか?


私は今、猛烈にライオンになりたい。

ああ、もし私がライオンやトラだったら、思う存分あの恐ろしいうなり声を上げられたのに。

「ううー」

空っぽになった課長席を見て、肉食獣よりだいぶ迫力に欠けるうめき声をもらす。

わかってますよ、課長だけが悪いんじゃないって。
だけど他に不満のはけ口がないんだもの。



あと定時まで一時間を切った頃、伊月君を従えた課長が「咲里亜さん」と打ち合わせ用のテーブルから手招きしてきた。

「明日、工事の進捗状況を部長に説明しないといけなくなったんだ。説明は私がするから資料だけまとめてもらえますか?」

「明日、ですか?」

簡単に言ってくれるけど、簡単じゃないことは課長自身もよーくわかっているはず。
体裁を整えるだけでもなかなかの時間がかかる。

それを明日まで・・・。


決定事項だしどんなに文句を言ったところでやらなければいけない。

やるよ、やるけど、やるから、不満くらい顔に出ても許して課長。

「そんなきっちり考えなくていいよ。去年の資料チョチョッと直して使えばいいから」

「・・・はい。わかりました」

言われなくてもチョチョッとやります。
そうじゃないと明日までなんて間に合わない。

説明は課長がしてくれるなら私は後ろに控えていればいいだけだし、今日だけ頑張ればいいんだから!


・・・とは言ってもな。

長い時間ディスプレイを見続けたせいで目から肩こりしてしまった。

苦しい。

たかが肩こりと思うかもしれないけど、集中力も切れて仕事の進みも悪くなっている。
一気に仕上げてしまいたいけど、ダメだ!一旦休憩!

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