ポイントカードはお持ちですか?

「これ、去年の状況でしょう?今年の一番最新のデータはないの?」

ピンポイントで乙女(ちょっととうはたってますが)のハートを部長は打ち抜いた。

「ええと、今年の状況はですね、まだ確定できない部分が多くて不明確といいますか・・・」

しどろもどろになっているのは課長ではなく、私だ。

部長の前に並んで説明を始める段になって、

「担当者だから中村さん、どうぞ」

と、さらっと場所を譲ってきたのだ。

そんじょそこらの肉食獣も逃げ出す部長の圧に、シマウマのような課長はあっさり怖じ気付いたらしい。

人身御供。
心臓をやられた私はこれから次々に引き裂かれて、挽き肉になっていくんだ。

だけど、課長にとってはその方がいいだろう。
生きて帰れたあかつきには喉元を噛み切ってやる!

今ならあの咆哮を出せそうだ。

怒れるライオンの境地に入りかけた私の横で、キリンのような伊月君がすっと動いた。

「不明確な点は多いですが、現時点で確定しているデータだけでよろしければこちらです」

ホチキスで止めた数枚の書類を部長、課長、そして私の順に配る。

パラリと軽い音をさせて紙をめくった部長の声が明るくなった。

「十分、十分。なんだ、これだけ進んでるなら大丈夫じゃない」

急にご満悦になった部長に安心したのか、課長が草原を駆け抜けるようにしゃしゃり出てきた。

「トラブル続きで進んでいないのは確かですが、なんとか年度内に目標値を達成できる目処は立てられる予想です」

実はぼやっとした発言なのだけど、最新のデータという説得力があるせいか部長も特別指摘しない。

「わかった。このまま進めて」

寛大なお裁きを受けた罪人そのものの姿勢で部長を見送り、続けて課長も軽やか且つ逃げるように会議スペースを出ていった。



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