ポイントカードはお持ちですか?
「あ、あの、伊月君は大丈夫なんでしょうか?ほら!私割と案件かぶってるので」
いじましく情報収集に乗り出した。
わざとらしい言い訳にもチョコレートのアルミを剥いでいる良二さんは気づかなかったようだ。
「伊月君ねー、もちろんそれなりに面倒な案件は抱えてると思う。量も多いし。だけど彼、あんまり不満が外に現れないからなー」
「わかります。いつも真面目で無表情で何考えてるかわかりませんよね」
この私の発言に、いいだけおっさんのはずの良二さんがかわいらしく小首をかしげた。
「伊月君は別に無表情じゃないよ?もちろん明るく大はしゃぎするタイプじゃないけど、普通に笑うしジョークも言うよ?」
・・・良二さん、それ誰ですか?
私の知ってる伊月君?
いつの間にか話題変わってた?
「・・・そうなんですかー。私あんまり一緒にいないからわかりませんでしたー。へー意外ー」
棒読みの私の言葉を「良二さーん!お電話でーす」という声がかき消した。
「はいはい。咲里亜さん、これありがとう!」
再度お礼を言って去っていく後ろ姿を見送った。
そのついでのフリで伊月君の姿を視界にとらえる。
当たり前だけど仕事中だから、真面目に無表情にパソコンに向かっていた。
あなた、普通に笑うんですって?
ジョークも言うんですって?
笑顔がないのは身内だからだと思っていたけど、もしかしたら私、嫌われてた?
ぎゅううううっと胃なのか心臓なのか、とにかく体の中心が雑巾絞りみたいに締め付けられた。
呼吸も浅くなる。
意識的に深呼吸して、なんとか涙は押さえ込んだ。
気持ちを落ち着かせるためにチョコレートをひとつ口に入れて、ガシガシと噛む。
甘いはずのその味は、全然わからなかった。