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週末ともなると人気の店は混み合うのだが、有紀はお気に入りのおでん屋さんをしっかり予約しておいてくれた。

コンビニでおでんが一番売れるのは9月だという。
暑さがピークを越えて少し気温が下がると、寒くなった錯覚であたたかいものがよく売れるのだとか。

もう錯覚ではなく寒いので、本格的におでんの季節だ。

「大根、たまご、糸こんにゃく、はんぺん、ロールキャベツ、牛すじ、を2つずつと梅酒のソーダ割り」

「あとタコと焼おにぎりと焼酎お湯割り」

店員さんが復唱するのももどかしげにしていた有紀は、彼が立ち上がると同時に口を開いた。

「で、伊月君のことだけどさ、どこまでいってるの?」

パンッ!
紙おしぼりの袋をぎゅっと握ったらいい音が出た。

「どこまでもなにも、なーんにもないよ。ただの同僚。私の片思い」

木曜、金曜と伊月君はいたけれど、たまたまながら接点はなかった。

相変わらずの作業着でも、髪型の影響で女性の間でちょっとした騒ぎになったのは、うちの職場でも一緒だった。

「片思い・・・なんか久しぶりに聞くな。もう恋愛なんて遠ざかってるし、若い子の恋の話になんて入っていけないもん」

有紀の話を聞く限り「結婚しても恋愛中」とはなかなかいかないらしい。
実際は付き合ったり結婚してから発生する悩みの方が重いのだけど、重い分ランチのトークには持ち出せない。
有紀もストレスを溜めているのだ。

明日まで修学旅行でいない旦那さま。
今夜はその留守宅にお邪魔して、たまにじっくり話を聞いてあげる予定だ。
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