ポイントカードはお持ちですか?
「私もまさか30になって片思いするなんて思ってなかったよ。十代のときは憧れの先輩に片思いしたりしてたけど、それ以降は親しくなってお互いなんとなくいいなー、って思ってるのがわかって付き合う感じだったから。それすらもう何年も前の話だけど」
「まあ、あの見た目じゃ好きになるのもわかるけどねー」
「見た目じゃない!」
梅酒のソーダ割りと焼酎のお湯割りを持ってきた店員さんが、わずかにギョッと身を固くした。
軽く乾杯して口をつける。
「信じられないかもしれないけど、本当につい先週までは誰も伊月君なんて見向きもしてなかったんだよ。いっつも作業着で髪も伸び放題にモサッとしててさ。真面目すぎて仕事人間だし全っ然、全っ然モテてなかったんだから!」(タコ好きー)
「信じられないな。一部女子は果敢にも食事に誘ったらしいよ。仕事関係の飲み会があって断られたらしいけど。連絡先交換くらいはしたんじゃないかな?」(大根しみるねー)
「はあ、いいなー」(たまごがうまいのは当たり前だ)
「連絡先知らないの?」(糸こんにゃくもいいけど、普通のも頼もう!)
「電話番号だけ知ってる。同じ部内だからね」(牛スジとろける・・・)
個人的に交換したわけじゃない。
必要に迫られていつの間にか知っていただけ。
私と伊月君の間に、仕事抜きの私的な繋がりは全くないのだ。
この前惨敗したソフトクリームデートを除いて。
「もう果敢にチャレンジする元気ない」(はんぺんー)
「三十路だもんね」(梅酒ソーダ、おかわり!)
「そうだよ。自分では30歳ってまだまだ全然若いと思ってた。だけど、いざ誰かを好きになってみるとさ、重いよ、30。『付き合う=結婚』になるでしょ?しかもリミットもそんなにない。それ引っ提げて伊月君に近づくなんて無理」(こっちも、焼酎お湯割り!)
「私が言った通りでしょう?」(ロールキャベツの肉汁っ!)
有紀はまったく遠慮なく、むしろ予想が当たって嬉しそうに肯定してくれた。
口はしゃべりながらもしっかり食べてもいたので、今更焼き鳥盛り合わせを追加する。