縁側で恋を始めましょう
夕飯を食べ落ち着いた後、縁側に座っていると、暁がいつものようにビール片手に隣に座った。
「ありがとう」
「うん。なんか元気ないね、どうかした?」
そう言うその表情は優しく、よく知っているいつもの暁の顔だ。
それでも、目の前のこの人は有名小説家の空野アカツキである。そう考えると、なんだかとても遠い存在のように感じてしまった。
「教えてくれても良かったんじゃない?」
意を決してそういうと、暁がビールの缶から口を離し、驚いて様に私を見た。
横に置いてあった雑誌を見て「ああ」と納得したように呟く。
「どうして教えてくれなかったのよ。暁が、空野アカツキだって……」
「小説家だとは言っていたでしょう」
「そうだけど」
「それに別に俺、一言も売れない小説家だとか卵だとか言った覚えはないよ。紗希が勝手にそう思い込んでいただけ」
「う……」
それはまさにその通りで何も言い返せない。