縁側で恋を始めましょう


「まぁ、仕方ないんだけどね。そもそもあの家は暁のおばあちゃんちだから」
「あ、そうなの? それじゃぁ追い出しにくいね」

香苗に頷き到着したエレベーターに乗り込んだ。

あの家は暁の亡くなった祖母の持ち物である。
それを私が社会人になってから、特別に暁の両親に安値で借りて住んでいた。

私は昔からあの家が大好きだった。

二階建ての日本家屋。畳の部屋。庭を眺めながら縁側で寛ぐ時間。都会なのに田舎にいるような穏やかな空気感。

だから暁のおばあちゃんが亡くなって、あの家を人に貸し出そうかと思うと聞いた時、真っ先に手を上げたのだ。
暁の両親も、よく知る私が相手なら大事に使ってくれるだろうと二つ返事で承諾してくれた。
しかも家賃までも少し安くして。
そんな思い入れのあるあの家で、仕事が終わって縁側でビールを飲む時間が私の最高のリフレッシュ時間だったのだ。

それなのに……、それなのに!

ひとりでこの大好きな場所を独り占めしていたのに、それがぶち壊されたのは二週間前。
突然、何の前振れもなく暁が大きな荷物を抱えてやってきた。
あぁ、その時のことを思い出すと今でも頭が痛くなる。



< 9 / 125 >

この作品をシェア

pagetop