アイドルの素顔に夢を見るのは間違っている


凛太朗くんは、呑気にふわぁあとあくびをしてのっそりと身体を起こした。

どうやら胸に刺さっていたナイフはオモチャだったみたいだ。


「なにしてんの。ケチャップまみれで」


「どうやって死んだら……みんなの心の中に残れるのかなって考えてた。」


「…!?…馬鹿かっ!! やめろっ!! 食べ物を無駄にするな」




ご丁寧に部屋を汚さないように大きなレジャーシート敷いてるし。準備満タンだ。




「…そんなことより…どうしてみゆちゃんがいるの?」


「凛太朗くんだけが事務所に来ないから心配だったの。まぁ来てよかったかな……お風呂はいる?」


「……僕のこと……心配してくれたの??」


「え、まぁね。」


「そっか……」



……厄介だ。
なぜならどこまで本気でどこまで冗談かがわからない。
こんな馬鹿げたことするのは冗談?
それとも本気で死ぬ事のシミレーションしてるのかな。
だとしたら相当危ないよ。この子。



「服……汚れちゃった」


「そりゃケチャップ大量にかけりゃね……」


「…うん。」



クンクンと服の匂いを嗅いで顔を歪める凛太朗くんに、私の顔も歪む。……やばい。凛太朗くんってもしかしなくてもコミュニケーション能力ない??


致命的じゃん。
そんな子がアイドルやれんの…………



「シャワー浴びよ……」


「ああ!まって!!ここで脱がなきゃケチャップ地獄が!!」


「ああ……脱がせて」



……へ?


「いまなんて?」


「脱がせて……」

「子供かっ!! 部屋から出て行くから自分でやれっ!!」


とんでもないことをいう19歳に、私は慌てて立ち上がり部屋を出ようと試みる。



「……みゆちゃん…怖い……そんなに僕が嫌いなの?どうしよう…つらい」


め、めんどくせぇええええええええ


「嫌いじゃないから!!ただ、やっぱりいい歳した男の子が、いい歳した女の子に服を脱がせてもらうのは如何なものかと。」



「………別にいいと思う…」


「いや、色々よくないから。」


「……細かいなぁ……」


やっと自分で服を脱ぎだした彼を見て、部屋からさっさと出た。これって更生させられるの?無理じゃない?


ここまで激しいメンヘラ初めてすぎてどう相手をしていいかわからない。



自分にケチャップかけて死んだふりするなんて、心臓にも悪いわ。



前途多難すぎて頭がいたい……。
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