アイドルの素顔に夢を見るのは間違っている
その後、凛太朗くんは”死にたい”なんて言わなくなった。
このままうまくいけばあの包帯もとれるかも。
焦ってはいけないと、心を落ち着かせて今日はこれで帰った。
彼の向上心を保たせるため、なるべく連絡は返したし眠るまで付き合った。
だから明日はこれでバッチリだと思っていたというのに。
「……どうしていないの。凛太朗くん……」
翌日の事務所に朝からいるのは3人。
ギャンブラーと凛太朗くんはいない。
私はズーンとうな垂れた。
「うるせぇ。こっちは朝帰りでねみぃんだよ。黙れ」
「あ、朝帰り!?ばっかじゃないの!?この女たらし!!」
「……凛ちゃんなら部屋から出てきてないわよ。あと健ちゃんは新台でるから来ないって」
「嘘でしょ!?」
首元に赤い跡のある蓮斗さんにツッコミを入れる前に、俊輔さんの言葉に驚愕してしまい意気消沈。
……くそっ!!今日は、ダンスの先生にレッスン頼んだのに!!
それでもって凛太朗くんに良いもの持ってきたのに!!
そしてギャンブラー許さん!!
「迎えに行ってくる!!!」
いてもたってもいられなくて思わず事務所から飛び出した。
「……心優ちゃんってあれだよね。メンヘラを育てるタイプ」
「あら、私も慎ちゃんと同じこと思ってたわよ」
事務所を出て、タクシーを拾ってそのまま家に
どうせ凛太朗くんは出ないんでしょ!!
と心の中で文句言いながらもう鍵を開けてやる。
「凛太っっ
ろ…うくん?」
最初は勢い良く名前を呼んだのに小さくなったのは
目の前で靴を履いている彼がいたから。
「あ、みゆちゃん。迎えにきてくれたの?」
「う、うん。 いまから行こうと思ってたの?」
「誰も起こしてくれなかったから寝坊したの。わざわざごめんね。」
ヘニャリと笑った凛太朗くんに、私は自分を責めた。
馬鹿だ私……
彼の心にはちゃんと届いていたのに、先に疑っちゃうなんて。タレントとマネージャー、そして社長だってやってるのに、こんなことじゃ大切な信頼関係を築けない。
「り、凛太朗くん……!!私凛太朗くんのこと疑ってた!ごめんね!」
頭を下げて謝るとキョトンとした彼は
「僕、みゆちゃんが迎えにきてくれて嬉しいよー」
とまた笑顔を作った。
私の中の罪悪感がまた大きくなる。
「あ、そ、それとね……これ包帯の代わりにならないかなって持ってきた。」
お詫びにというニュアンスになってしまったけれど、取り出したのはリストバンド。
運動するときに使おうと思って買ったけど結局使わなかったのだ。
「これ、僕にくれるの?」
「う、うん。手首につけたら安心するかなって……」
頼む、受け取ってくれと心の中で願う。
この包帯を外すことができたら、もう完璧だ。