アイドルの素顔に夢を見るのは間違っている


”借金”というフレーズが頭にこびりついた。
あれだけギャンブルにハマっていれば、予想できたことかもしれない。


これは事務所の一大事だ。


「……送ってってやる」

「へ?」

「ここじゃ、健吾に聞かれるしな。いまは寝てるだろうが、詳細は車で教えてやるから乗れ」



詳細ってなんなんだと思ったし、もう聞くのも怖かった。


だけどご丁寧に送ってくれると言うんだから、せっかくだしお言葉に甘えよう。

男と2人で車に。というのも少し引っかかるけれど、健吾さんのことから目を背けてはいけないものね。


とりあえず俊輔さんに置手紙を書いた後

荷物を持って蓮斗さんの背中を追いかける。


車に乗り込むと香水の甘い匂い……


また服に移ってしまいそうだけどいまはそんなことを言ってる場合じゃないな……と黙った。



「それでその借金って…」

さっさと本題に入ろうと口を開くと、エンジンがかけられて車も動き出す。慣れた手つきでハンドルを動かす彼の横顔は、やはり綺麗で整っていた。


ってそれどころじゃない。



「金額は300万だ」

「さ、さ、300万!?」


信じられないと頭を抱える


……嘘でしょ。それだけつぎ込んじゃったの?



絶望といってもおかしくない。
しかし私が、なんて情けないんだと嘆くより先に



「その借金は健吾のものじゃねぇよ」


蓮斗さんがそう呟いた。




「え、どういうこと?」


「……あいつの父親の借金だ。蒸発しちまったらしいけど、保証人にされてたみたいだな。」


「え、で、でもいまそういうの厳しいんじゃ」


「闇金なら関係ねぇ」


借金を押し付けられてる……いやでも、自分は余計に借金を増やしてるんじゃないか。



「押し付けられた借金だし、酷なこと言うかもだけど、返さなければいけないお金ならギャンブルやめて働かないのかな」



いつか自分の分も上乗せされそうで、心配の意味も込めてそういえば彼はため息をついた。




「あんなクソ親父の為に、汗水流して働いた金を使うのが嫌なんだと…」


「え…」


「言い分はわかるけどな。あいつがギャンブルするのは依存と親父への意地の半々だ。ギャンブルで儲けた汚い金なら返してやってもいいっていう考え方なんだよ。」



なんということなんだろうか。
予想もしてなかったストーリーに、私の頭はこんがらがる。


でも確かに言い分はわかる。
DVされてたと言ってはいたし、そんな人のために働いたお金を使いたくないということも理解。



だけどそれでもなぁ…



「ちなみに俺の貯金を貸してやると言ったのも断られた。あいつは意外に頑固で、人の心配ばかりするタイプだし」



「そうなの……」


信号が赤になって車がゆっくりと止まった。


悩む私を見て蓮斗さんが口端を上げたのが瞳に映る



「……由乃さんも断られて解決できなかった問題だ。で、お前ならどうする?」



まるで、なんとかできるのか?と試されているようだった。


返してあげられるお金ならある。


だけど本人が受け取らなければどうにもできない。


……どうしよう……
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