アイドルの素顔に夢を見るのは間違っている
「…どうにかするのはとりあえず置いといて、私のこと試してるんですか?」
「当たり前だろ。こんなことでつまづかれちゃこっちは困るんだよ。」
「……ああそう。まぁ大丈夫です。健吾さんのことは私に任せてもらって」
根拠のない自信を口にすれば蓮斗さんは、満足そうに笑った。
…読めない。この人。
さすがは女たらしといったところか、ミステリアスで声も甘けりゃ顔も甘い。
「まぁ凛太郎のことは、まぐれかもしれねぇしお手並みを拝見させてもらうぞ。マネージャー社長」
車がまた動き出して、迷うことなく私の家への道を通る
「……そんなことより、自分を改心させたらどうですかね?蓮斗さんは」
なんだかかっこいいと思ってしまった自分が悔しいので、皮肉を言ってやった。
「俺はこのままで良いんだよ」
「良いわけありません。練習も真面目にやらなくちゃ」
「必要ねぇ。俺は天才だからな」
ニヤッと笑った奴に
あ、こいつダメなやつだ
と思う。
どこまで本気なのか知らないけど、こういうこと言うやつは大抵ダメだ。私の経験上
ギャーギャーとそんな言い合いをしているうちに目的地に着くと車が止まる。そして何故か蓮斗さんが真っ直ぐと私を見つめた。
「…あ、ありがとうございます……なんですか?」
「……いや、お前みたいな色気もなけりゃ口も悪い女を彼女にする男はどういう神経してんのかと思ってな…」
「や、藪から棒に!!ビンタするぞ!この女たらし!!」
一応アイドルなので、叩くつもりはないが反射的に手を振り上げるとガシッとその手を掴まれる。
「……んなにキレんなよ。もてねぇぞ」
「も、もてなくていいわ!!離してよ!!この顔だけ男!!」
「……送ってくださり、ありがとうございますだろ…?」
「う、うるさいっ!!! 」
どうにか反撃してやろうと思ったけれど、いつの間にか握られた手が私の膝の上に押し付けられていて、身動きが取れなかった。
「…この先業界で戦っていくなら…おしとやかにしてた方がいいぞ。お前の母親がそれを武器にしてたように。」
「……あんな売春婦と一緒にしないで……っ!」
「ほんと口が悪りぃな。なんなら”女”として俺が育ててやろうか??」
もう片方の手で顎を掴まれて、そのまま親指で下唇をなぞられる。ゾクゾクっと身体が震えたのは、決して気持ち悪いからではなかった。
これは才能だ。
女をたぶらかす才能
「……は、離して」
「お礼は?」
「お、送ってくださりありがとうございましたっ!」
キッと睨みつけて叫べば、やっと解放されて
「上出来」
と勝ち誇った笑み。
悔しい……なんかわかんないけど悔しすぎるっっ!!!