アイドルの素顔に夢を見るのは間違っている


結局その後、何事も無かったように蓮斗さんは去っていった。本当に根っから女を振り回す生き物なんだろう。


まぁあの人を更生させるのは、まだ後になるとしていまは健吾さんのことだ。


なんとかすると言った以上、なんとかするしかない。

だけど正直これっぽっちも思い浮かばない。



「……勢いに任せるしかないなぁ……」


そんなことを呟いて、もう夜遅いので自分の家で眠りについたのだった。




******************


睡眠わずか3時間。


どことなく気だるい身体を起こして、今日も私は用事を済ませたあと事務所に向かう。


健吾さんの借金を勝手に返せば怒るだろうか。
でもさすがにそれは踏み込み過ぎかな……


いきなり給料だとお金を渡すのも、頭がおかしくなったと思われそうだし。というかそのお金がすべてパチンコに消える気がする……



いろいろ考えながら歩いていると、またいつものパチンコ店の前で見たことある顔を見つけた。



……懲りない男だ。


「…健吾さん…」


「げっ!み、心優ちゃん…」


どうしてわざわざ私の通り道のお店に行くんだろう。疑問すぎるし、素でやってるなら頭が悪すぎる。



「何回言えばわかるんですかっ。」


ジロリと睨みつけると彼はタジタジになる


でもふと考えた。


いつも”ダメ”としか言っていない。だから打ち解けられてないのだろうか……


それなら一度、どんな様子でパチンコを打ってるのかみてみるのは?


「ま、マネージャー…黙ってる方が怖いんだけども」



そんなことをいう健吾さんを無視して、私はスケジュール帳を開いた。



今日は、特に誰かと会う予定もしていない。
ダンスと歌のレッスンのスケジュールは、これからまた次の分を調整。


今日は凛太郎くんも病み上がりだし、事務所の掃除でもして書類整理でもしようと思っていただけだ。



「も、もしもーし…」


「よし。一緒にパチンコしよう。」


「……へ?」


パタンとスケジュール帳を閉じたと同時に発したセリフに、彼は目をパチクリさせる。


「私、やったことないから。教えてくださいね。軍資金は出す」


「え、な、なに?どういう風の吹き回し??」


「……頭ごなしにダメって言うんじゃなくて、一度健吾さんの様子を見てみるのもいいかなって。」



「ま、まじ?」


「このお店もう入れるんですか?俊輔さんに連絡いれて、中に入りましょ」


いまだに信じられない様子の健吾さんを置いて、初のパチンコ店へ。入った瞬間、タバコの臭いと音が私を襲った。



……心折れそう……


だけど、まぁ一度くらいは頑張るか。


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