アイドルの素顔に夢を見るのは間違っている


健吾さんの足が速くて、私は遅れて事務所へとついた。少しこのハイヒールが原因でもあると思う。


想像ではヤクザみたいな人が喚き散らしていて事務所が無茶苦茶にされてる。と言った感じだったんだけど、私が来た時には、健吾さんがペコペコ頭を下げている姿が見えた。


「ほんとすみません。親父見つかりそうになくて、これでダメなら払います」


「なら後もう少しだけ待ちます…」


相手はスーツを着た男性。


強面と言ったような感じでは無いみたいだけど、まぁ最悪の状況には変わりないみたいだ。


「なんならここの事務所の社長さんに払ってもらったらどうですか?」


「いや、それは…」


「…まぁとりあえず月末には返してくださいね」



借金取りは嫌味を言った後、私を普通に通り過ぎて去っていく。


きっとここの社長がこんな小娘だなんて思いもしなかったんだろうな……



事務所の扉を閉めて中に入ると、珍しいことに全員いる。

なんにも無い日に全員揃うなんてわざとだろうか……と思ったけど、いまは黙っておこう。



「…健ちゃん大丈夫なの?」


神妙な顔をする健吾さんに初めに話しかけたのは、俊輔さんだった。


「いやぁ。参ったよな。思ったよりも時間ないみたいだしさ。親父も見つからず、ギャンブルにも勝てず、どうしようも無いな……あはは」


「笑ってる場合じゃないでしょ? 蓮ちゃんにお金借りたら?ね?」


「いや、やっぱりそれは……」


「しーちゃんの言う通りだよ。これから簡単に稼げるかもしれないじゃん。みーちゃんの力でさ」



慎太郎くんのセリフにつっこみたいのは山々だけど、私はそんなことより健吾さんのくだらないプライドに苛立っている。


助けてくれ


そう言ってくれたら、いくらでも助けられるのに。



「…月末までに金作れなかったら…アイドル……抜けるわ。俺……みんなに迷惑はかけたく無いし」


「…け、健ちゃん!!だめよ!5人で頑張ろうって決めたでしょ!」


「いや、俊輔も知ってるだろ? 元々俺はお前らみたいに爽やかなキャラでも無いし。由乃さんに言われてやってみようとは思ってたけど、ほら、この世界運も必要だし、それを言うと才能無い……。ギャンブル弱いのこれでわかったというか…なんというか。だから」



バンッ!!!



大きな音で揺れたのは事務所のドア。
揺らした張本人はこの私だ。



「……無理矢理社長やれだのなんだの言ってきたくせに、やめるだぁ?? なに勝手なこと言ってんの!?」



張り詰めた空気
凛太郎くんは口は開かないけど、悲しそうだし蓮斗さんからどうにかしろという目線が痛い。



……どうにかするわよ。
この馬鹿の更生を!!


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