アイドルの素顔に夢を見るのは間違っている
しーちゃんの部屋から出ると、甘くて美味しそうな香りがした。リビングでは、心地いい火の音と美味しそうなフレンチトースト。
「わぁ…」
そしてそれを口に運ぶ凛太郎くんが
「んっ、おはよー…」
とヘニャリとした笑顔を見せてくれた。
「お、おはよう…」
「ほら、あんたも座りなさい。」
「あ、はい。」
おかんみたいなしーちゃんに促されて、席に着く。新聞を読みながらコーヒーを飲む健吾さんがこれまたお父さんみたいで、なんだかこそばゆい。
私の憧れた……家族
台所に立ってるのは、やはりスタイルのいい男の人で間違いないのだけど、ついそんなことを思ってしまった。
「…はい。どうぞ」
目の前に置かれたフレンチトーストは、ご丁寧に粉砂糖がかかってる。
「美味しそう……」
「”そう”じゃないのよ。美味しいの」
ニコッと綺麗に笑ったしーちゃんに、少しドキッとした。
見えた……この人がアイドルになったときのお仕事風景。
料理番組とか、お昼の番組、絶対いける。
フレンチトーストの味ももちろん美味しくて、ついつい頬が緩む。
「美味しいっ!!」
「でしょ?」
ふふ
と声をあげた彼は、嬉しそうに私を見つめていた。
「……しーちゃん、お菓子作りは上手」
「あら、凛ちゃん。お菓子作り”は”ってどういうこと?」
「確かに。俊輔の作るご飯は、十六雑穀米とか、野菜ばっかで物足りない。」
「健ちゃんまで!!もう!美容にいいのよっ!」
しーちゃんってこんなに笑う人なんだと初めて知った。
私の前ではツンケンするだけだったもの。
そんなことを思いながら黙々と食べていたら、突然彼は私をジッととらえた。
「…な、なんでしょうか」
「……はっきり言うわ。あんたね、女捨てすぎ。なんなのあのヨレヨレの下着」
「ぶっ!!!」
したぎぃいいいいいい!?!?!?
突然何を言い出す。このオネェは!
確かに下着なんて、ここ二年買えてないけど!!
「肌の手入れもなっちゃいない。髪も傷んでいるし、目の下には隈。そんなんで私の社長なんて許さないわよ」
「い、いやでも、私は、」
「美しいアイドルを育てる女が、美しくないなんて私は納得できないわっ!!」
…なんの説教なの。これは。
全部食べ終わって、つい背筋が伸びた。
確かに最近疲れすぎてシャワー浴びず、化粧も落とさず寝ちゃうこともあるし、手入れなんて乾燥しないように保湿クリーム塗るくらい。
晃にも美容に対して大雑把と言われる部分が多々ある。
「私が、あんたを私の上に立つのに相応しい社長にしてあげるわ。任せなさい。下着から化粧品、すべてプロデュースよ!!」