熱帯魚とリグレット
どうやら彼が見たというのは、私を知る彼の友達が東京に来たときにその広告の写メをとったのを見た、ということだった。


まあ、そんなことだろうと思った。

私たちの地元は東京から離れた田舎だ。

彼が直接見ることなんてないだろうとは分かっていた。


「最近は、忙しいの?」


私は寂しさを隠すようにわざと明るい声でそう尋ねた。


『え?ああ、うん。テストが近くてね』


ちょっと大変かなと言う彼は、地元でいちばん偏差値の高い高校に通っている。

おかげで勉強漬けの毎日だそうだ。

私なら絶対逃げ出しちゃうね。考えるだけで頭と胃が痛くなる。


『そっちは?』

「ああ、うん。明日も撮影なんだ」


私はスケジュール帳を見ながら答えた。

スケジュール帳にはオレンジの文字で仕事関連のことが書き込まれている。


『何時から?』

「午前4時」

『4時!?』


大変だね、と彼は気の毒そうに答えた。

「そんなもんだよ」と私は笑った。


「そっちこそ、何時まで勉強してるの?」

『午前2時くらいかな』

「うわあ、よくやるね」

今度は私が彼を気の毒に思う番だった。

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