熱帯魚とリグレット
「お互い忙しいね」

そういって笑うと、彼も『そうだね』と笑った。お互い苦笑いというやつだ。


『お互いがんばろうね』

「うん、身体に気をつけてね!」

『あは、それは言えてる』


それから「じゃあね」と言いあって電話を切った。


私はため息を吐いた。


今の生活に、後悔も不満も何もない。

仕事も増えてきたし、何よりこの仕事は楽しい。

マネージャーさんとも仲良しだし、モデルの友達も何人かいる。

電車は待たなくてもすぐに来るし、どこにだってカンタンに行けるし、ほしいものは何でも手に入るし、夢の国だってある。



だけど。

ただひとつ、後悔していることがあるとすれば。



きみに好きだと言えなかったことだ。


< 4 / 27 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop