熱帯魚とリグレット
「はあああ…」


やっと撮影が一息ついて、近くのベンチに座ると同時に私はなだれ込んだ。


「お疲れー」


マネージャーさんの言葉はまるで棒読みだ。

いや、ペットボトル入りのホットミルクティーをくれただけありがたいというべきか。


しかし反抗する気にもなれないまま、少し目を閉じる。


今日は野外での撮影だ。


午前8時ともなれば人通りもすごく増えてくる。

おかげで周りの雑踏がとてもよく聞こえる。


するとマネージャーさんが「そういえば」と何かを思い出したように言った。


「どうしたんですか」と、むくっと顔をあげる。


「撮影してる間にメール届いてたみたい」


ほれ、と差し出してくる私のケータイを受け取ってメールボックスを開くと、そこに書かれていた名前に目を見開いた。




「うそ、でしょ」




差出人の名前は、彼だった。



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