今ならやり直せる
揺れる想い
派遣先での仕事を三ヶ月くらい続けて、やりがいを感じてきた。
顧客からの問い合わせにも、花の知識が豊富だった為、的確なアドバイスも出来て、社員の方達に重宝がられた。
季節の花は何か、ブーケにふさわしい花は何か、寒い地域での長持ちする観葉植物は何かなど、華からすると簡単な質問だった。
時々、社内には派遣会社の担当スタッフが様子を見に来た。もちろん、契約してくれる会社への挨拶が目的なのだが、マメに来社しているのを見ると、きちんとした派遣会社なのだなと感心する。
「大木さん、ちょっとこちらへ」と担当営業者に言われて慌てて立ち上がる。
「どうですか?こちらの職場は?」
もちろん不満はなく、雇って貰って感謝している。他のスタッフの方達も良い人ばかりで、満足していた。
「とても楽しく働かせて頂いています」と言うと
「先程、担当者と話していたのですが、大木さんが居てくれて助かると言っておられました。草花に詳しく、取引
先も喜んでいるようです。今の調子で頑張ってくださいね。期待しています」と思わぬ事を言われて驚く。
今まで、自分に期待している人なんて居なかったし、助かるという言葉も嬉しくてたまらなかった。
前の職場では腰掛けで、居ても居なくても同じだったし、家庭でも褒められたこともなければ、有り難がられたこともない。
初めて働くことに対して、友人達が情熱やプライドを持っていることが理解出来た。
昼過ぎに社員さんから、近くのホテルに花束を持って行って欲しいとお願いされた。
お客様が誕生日で、急に花束を用意しなければならないらしい。
すぐに、会社の隣にある倉庫に行き、指定の花束を持って、徒歩十分位のホテルへ向かう。
都内でも有名な老舗の一流ホテルで、うちの会社の大切な顧客でもある。
ロビーや廊下に飾る定期的な花、結婚式やパーティに使用する花、全て華の会社が担当していた。
花束は豪華で大きく、大切に抱きかかえて会社を出た。
前が見えにくいが、商品の方が大切なので、赤ん坊を抱くようにして歩く。
ホテルの裏側には従業員専用出入り口があり、そこから中に入る。
入口を入り、廊下をすすんだ突き当たりに従業員専用の部屋があり、いつもそこへ届けていた。
しかし、今日は、その場所へ着く前にホテルの従業員がすぐに気付いて、花束を受け取りに来てくれる。
「急な注文ですみませんでした」と謝ってくれるが、こちらとしては有り難い話で
「いいえ。いつでもご遠慮なく。これからもよろしくお願いいたします」と言って花束を手渡した。
「うちのホテルを定宿にしておられるお客様の誕生日なのです。助かりました。ありがとうございます」とニコリと笑う。
流石、一流ホテルの接客だけあって、作り笑顔には見えない。
深くお辞儀をして、その場を立ち去る。
従業員出入口に向かって歩いていると
「大木さん!」と声がするので振り返ると先程の従業員が駆け寄ってくる。
「すみません。名札見ちゃいました」とすまなさそうに笑う。
「あ、いえ、大丈夫です」名札は見えるように付けているのだから問題ない。
その男性は
「大木さん、今度一緒にランチでも行きませんか?会社近いですし」とさらっと誘ってきた。
大切な取引先の社員さんだし、笑顔を作って
「はい」と言った。
返事をしたけど、そのまま連絡先も渡さないまま去ってしまった。
いわゆる、社交辞令だろうし、相槌を打っておけばいいだろう。主要取引先だし、はっきり「行きません」なんて言えないし。
よく、このホテルに配達に来るけど、あの従業員は見たことがないかも。会っていたとしても、このホテルにはたくさんの従業員がいて、更にお客さんもいるので、覚えるのは難しい。
顧客からの問い合わせにも、花の知識が豊富だった為、的確なアドバイスも出来て、社員の方達に重宝がられた。
季節の花は何か、ブーケにふさわしい花は何か、寒い地域での長持ちする観葉植物は何かなど、華からすると簡単な質問だった。
時々、社内には派遣会社の担当スタッフが様子を見に来た。もちろん、契約してくれる会社への挨拶が目的なのだが、マメに来社しているのを見ると、きちんとした派遣会社なのだなと感心する。
「大木さん、ちょっとこちらへ」と担当営業者に言われて慌てて立ち上がる。
「どうですか?こちらの職場は?」
もちろん不満はなく、雇って貰って感謝している。他のスタッフの方達も良い人ばかりで、満足していた。
「とても楽しく働かせて頂いています」と言うと
「先程、担当者と話していたのですが、大木さんが居てくれて助かると言っておられました。草花に詳しく、取引
先も喜んでいるようです。今の調子で頑張ってくださいね。期待しています」と思わぬ事を言われて驚く。
今まで、自分に期待している人なんて居なかったし、助かるという言葉も嬉しくてたまらなかった。
前の職場では腰掛けで、居ても居なくても同じだったし、家庭でも褒められたこともなければ、有り難がられたこともない。
初めて働くことに対して、友人達が情熱やプライドを持っていることが理解出来た。
昼過ぎに社員さんから、近くのホテルに花束を持って行って欲しいとお願いされた。
お客様が誕生日で、急に花束を用意しなければならないらしい。
すぐに、会社の隣にある倉庫に行き、指定の花束を持って、徒歩十分位のホテルへ向かう。
都内でも有名な老舗の一流ホテルで、うちの会社の大切な顧客でもある。
ロビーや廊下に飾る定期的な花、結婚式やパーティに使用する花、全て華の会社が担当していた。
花束は豪華で大きく、大切に抱きかかえて会社を出た。
前が見えにくいが、商品の方が大切なので、赤ん坊を抱くようにして歩く。
ホテルの裏側には従業員専用出入り口があり、そこから中に入る。
入口を入り、廊下をすすんだ突き当たりに従業員専用の部屋があり、いつもそこへ届けていた。
しかし、今日は、その場所へ着く前にホテルの従業員がすぐに気付いて、花束を受け取りに来てくれる。
「急な注文ですみませんでした」と謝ってくれるが、こちらとしては有り難い話で
「いいえ。いつでもご遠慮なく。これからもよろしくお願いいたします」と言って花束を手渡した。
「うちのホテルを定宿にしておられるお客様の誕生日なのです。助かりました。ありがとうございます」とニコリと笑う。
流石、一流ホテルの接客だけあって、作り笑顔には見えない。
深くお辞儀をして、その場を立ち去る。
従業員出入口に向かって歩いていると
「大木さん!」と声がするので振り返ると先程の従業員が駆け寄ってくる。
「すみません。名札見ちゃいました」とすまなさそうに笑う。
「あ、いえ、大丈夫です」名札は見えるように付けているのだから問題ない。
その男性は
「大木さん、今度一緒にランチでも行きませんか?会社近いですし」とさらっと誘ってきた。
大切な取引先の社員さんだし、笑顔を作って
「はい」と言った。
返事をしたけど、そのまま連絡先も渡さないまま去ってしまった。
いわゆる、社交辞令だろうし、相槌を打っておけばいいだろう。主要取引先だし、はっきり「行きません」なんて言えないし。
よく、このホテルに配達に来るけど、あの従業員は見たことがないかも。会っていたとしても、このホテルにはたくさんの従業員がいて、更にお客さんもいるので、覚えるのは難しい。