今ならやり直せる
華はお客さんからのメールの返信も担当している。
「パキラが枯れてきたのですが、どうしたらいいですか?」
「切り花を長持ちさせるには、どうしたらいいですか?」
中には画像が添付してあり
「この花の名前は何ですか?」
というものもある。
適切に回答し、時には自社商品の肥料を勧めたりする。
草花を愛する人達とのコミュニケーションは、華にとっては至福の時間で、やりとりするうちに、最終的にお店の常連になってくれる方もいた。
夕方、携帯にメールが入る。
夫からだ。
もう、見なくても内容はわかる。いつも同じだから。
「夕飯、外で食べるから」
やはり同じだ。これが月に一度の恒例行事となっている。
食通の夫は、ミシュランで星を獲得しているお店や、有名老舗店が好きで、月に一度は外食へ出掛ける。
美味しいお店や有名なお店に行くのは、結婚当初嬉しかったが、最近では苦痛の行事になりつつある。
決して、私に美味しいものを食べさせたいという気持ちではなく、自分が食べに行きたいだけで、そうなると一人で入りにくい店もあり、誘っているだけだ。
この日だけは、七時頃に帰ってきて、すぐに着替えて車で向かうというパターン。これが一度も崩れたことはない。
まったく面白みもなく、ついでにどこかへ寄ったりドライブしたりは一切無い。
付き合った当初、美味しい物に釣られてしまったが、今では、どんな高級な食事よりも、誰と食べているかが一番重要で、それで味が変わってしまうと感じている。
何の会話もない食事なんて、楽しくもないし美味しくもない。
その日も、無言で夫は帰宅し、先に車のエンジンをかけている。
これは「もうそろそろ行くぞ」という合図で、無性に腹が立ったが、もう言い返すのも面倒だ。
車は走り出し、少し郊外のお蕎麦屋さんに到着した。
雑誌を見てきたとか、誰かのお薦めだとか、そういった説明もないし、今更、そんなうんちくめいたことも聞きたくない。
予約は取っているようで、座敷に案内されメニューを広げると、お蕎麦だけではなく、天ぷらや、お造りもあるようだ。
相談もなしに、夫は勝手に注文し、お茶をすすっている。これもいつもと同じだ。
和服を着た女将さんらしき人が、テーブルの上をセットしながら聞いてくる。
「お嬢さんとお食事ですか?」
この台詞はもう聞き飽きた。
若い妻だとわかっているが、いきなり「奥様、若いですね」と言うと、もし娘だった場合、失礼に当たるので、安全策としてこう聞いてくるのだ。
夫は小さな声で
「いえ。妻です」と答えると
「まぁ、お若い奥様で、良いですね」とテーブルを拭きながら言う。
夫の最小限の笑顔に、女将さんは、この人は話しかけるのが得意ではないなと察すると、それ以上は何も言ってこない。
結婚するときにも同じ台詞を友人達からも言われた。
「それだけ年上だと、優しいし何でも許してくれるんじゃない?」
「華のこと、可愛くて仕方がないんじゃない?」と。
しかし、現実は、ただの家政婦と化している。
「若い」は武器だと思っていたが、その武器が通用しない男もたくさんいるのだ。
その上、身体も求めてこないので、自分としてはプライドが許さない部分もあった。若い女をもらっておきながら、贅沢なんだよと心の中で思うようになり、夫を毛嫌いするようになっていた。
蕎麦をすする音だけが響き、本当は美味しい料理なのだろうが、社員食堂と変わらない味しかしない。
「パキラが枯れてきたのですが、どうしたらいいですか?」
「切り花を長持ちさせるには、どうしたらいいですか?」
中には画像が添付してあり
「この花の名前は何ですか?」
というものもある。
適切に回答し、時には自社商品の肥料を勧めたりする。
草花を愛する人達とのコミュニケーションは、華にとっては至福の時間で、やりとりするうちに、最終的にお店の常連になってくれる方もいた。
夕方、携帯にメールが入る。
夫からだ。
もう、見なくても内容はわかる。いつも同じだから。
「夕飯、外で食べるから」
やはり同じだ。これが月に一度の恒例行事となっている。
食通の夫は、ミシュランで星を獲得しているお店や、有名老舗店が好きで、月に一度は外食へ出掛ける。
美味しいお店や有名なお店に行くのは、結婚当初嬉しかったが、最近では苦痛の行事になりつつある。
決して、私に美味しいものを食べさせたいという気持ちではなく、自分が食べに行きたいだけで、そうなると一人で入りにくい店もあり、誘っているだけだ。
この日だけは、七時頃に帰ってきて、すぐに着替えて車で向かうというパターン。これが一度も崩れたことはない。
まったく面白みもなく、ついでにどこかへ寄ったりドライブしたりは一切無い。
付き合った当初、美味しい物に釣られてしまったが、今では、どんな高級な食事よりも、誰と食べているかが一番重要で、それで味が変わってしまうと感じている。
何の会話もない食事なんて、楽しくもないし美味しくもない。
その日も、無言で夫は帰宅し、先に車のエンジンをかけている。
これは「もうそろそろ行くぞ」という合図で、無性に腹が立ったが、もう言い返すのも面倒だ。
車は走り出し、少し郊外のお蕎麦屋さんに到着した。
雑誌を見てきたとか、誰かのお薦めだとか、そういった説明もないし、今更、そんなうんちくめいたことも聞きたくない。
予約は取っているようで、座敷に案内されメニューを広げると、お蕎麦だけではなく、天ぷらや、お造りもあるようだ。
相談もなしに、夫は勝手に注文し、お茶をすすっている。これもいつもと同じだ。
和服を着た女将さんらしき人が、テーブルの上をセットしながら聞いてくる。
「お嬢さんとお食事ですか?」
この台詞はもう聞き飽きた。
若い妻だとわかっているが、いきなり「奥様、若いですね」と言うと、もし娘だった場合、失礼に当たるので、安全策としてこう聞いてくるのだ。
夫は小さな声で
「いえ。妻です」と答えると
「まぁ、お若い奥様で、良いですね」とテーブルを拭きながら言う。
夫の最小限の笑顔に、女将さんは、この人は話しかけるのが得意ではないなと察すると、それ以上は何も言ってこない。
結婚するときにも同じ台詞を友人達からも言われた。
「それだけ年上だと、優しいし何でも許してくれるんじゃない?」
「華のこと、可愛くて仕方がないんじゃない?」と。
しかし、現実は、ただの家政婦と化している。
「若い」は武器だと思っていたが、その武器が通用しない男もたくさんいるのだ。
その上、身体も求めてこないので、自分としてはプライドが許さない部分もあった。若い女をもらっておきながら、贅沢なんだよと心の中で思うようになり、夫を毛嫌いするようになっていた。
蕎麦をすする音だけが響き、本当は美味しい料理なのだろうが、社員食堂と変わらない味しかしない。