今ならやり直せる
派遣で働きだしてから、益々草花への情熱が増して、時々会社の花が置いてある倉庫へ足を運ぶようになっていた。
ここには、都内への配達用の花が集められ、ここで梱包され、時にはブーケや花束にして顧客へと届けられる。
ここへ来ると、新種の花や、品種改良で出来た今までにないカラーの花を見ることができ、その写真を撮って帰りの電車の中で眺めたりしていた。
倉庫へ入ると
「大木さん、こんにちは」とすっかり顔馴染みになってしまい、働いているスタッフに声をかけられるようになった。
「こんにちは」と笑顔で返す。
「大木さん、あちらの観葉植物ですが珍しい物ですよ」とごつごつして下半身がドッシリとした、歪な形をした木
の前に連れて行ってくれる。
見た途端
「あ、オペルクリカリア・デカリーですよね」と言うと
「さすが、大木さん。その通り。珍しいですよね。余りでないのですが、今回は注文がありまして」
「へぇー。マダガスカルの木ですよね」といいながら、条件反射でスマホを取り出し写真を撮る。
「あ、大木さん、聞いています? 明日、東京プレジデントホテルで国際花展が開催されるので、ここからもたくさんの花を配達することになっているんですよ」
「国際花展?」
「はい。花関係の仕事をしている企業が集まっての展覧会です。そこで商談が行われたり、一般客に珍しい花を見て貰ったりするイベントです。今回でまだ二度目らしくて、認知度は低いですけどね」
確かに、花好きだけど聞いたことがない。まだ二度目なら、無理かも。一般客も入れるなら、是非行ってみよう。
「ありがとうございます。教えていただいて」
「どういたしまして」
倉庫を後にして、社員さんに聞いてみる。
「国際花展って明日、東京プレジデントホテルであるのですか?」
パソコンを打つ手をとめて答えてくれる。
「そうなの。でも、近いけれど数が多いので、今回は業者に配達を頼んでいるのよ。だから、私達は何もする事がないの」と言うと机の引き出しを開けて、ゴソゴソと何かを探している。
「はい、これ」と華にチケットを手渡す。
見ると「第二回国際花展」と書いてある。
「これさ、東京プレジデントホテルの人から大量に貰ったから使って」
「いいのですか?」
「やだ。大げさに。元々無料だから。このチケットは、お楽しみ抽選券よ。会場の中に箱があるから、そこに入れておけばイベント後に粗品が当たるのよ。大した商品じゃないから期待しないで」と笑う。
「前回、行かれたのですか?」
「ええ。せっかくチケット頂いたしね。ずらっと珍しい花が並んでいるだけよ。あ、でも大木さんは花が好きだから、楽しめると思うわ。私にはマニアック過ぎるかな」と肩をすくめた。
「ありがとうございます。明日、行ってきます」
一つ楽しみが増えた。
働きだしてから、小さな事かも知れないが、楽しみが増えた。
会社帰りの寄り道や、お昼のランチ、倉庫へ花を見に行くこと、会社の人との何気ない会話、取引先への配達も楽しい。
結婚してから数年間、あの家で一人ぼっちだったので、小さな世界の中で生きてきた。たまに、昼間に都内に出てきてショッピングをしたりもしたが、それは最初だけで、すぐに行く気力さえなくなっていった。
それはショッピングしていても楽しくなかったからで、どうしても夫の給料で自分の物を買う気はならないし、嬉しくもない。
子供でもいれば、その親同士の付き合いもあるだろうけど、子供のいない家庭は、なかなか付き合いも難しく、次第に外にも出なくなった。
一日中、誰とも話さない日が数日続き、自分でもヤバイと感じて、花や観葉植物に力を注ぐようになった。
彼等は生きているので、優しく語りかけてあげると生き生きしてくるし、手をかければ応えてくれて、それが唯一の心の拠り所となっていった。
ここには、都内への配達用の花が集められ、ここで梱包され、時にはブーケや花束にして顧客へと届けられる。
ここへ来ると、新種の花や、品種改良で出来た今までにないカラーの花を見ることができ、その写真を撮って帰りの電車の中で眺めたりしていた。
倉庫へ入ると
「大木さん、こんにちは」とすっかり顔馴染みになってしまい、働いているスタッフに声をかけられるようになった。
「こんにちは」と笑顔で返す。
「大木さん、あちらの観葉植物ですが珍しい物ですよ」とごつごつして下半身がドッシリとした、歪な形をした木
の前に連れて行ってくれる。
見た途端
「あ、オペルクリカリア・デカリーですよね」と言うと
「さすが、大木さん。その通り。珍しいですよね。余りでないのですが、今回は注文がありまして」
「へぇー。マダガスカルの木ですよね」といいながら、条件反射でスマホを取り出し写真を撮る。
「あ、大木さん、聞いています? 明日、東京プレジデントホテルで国際花展が開催されるので、ここからもたくさんの花を配達することになっているんですよ」
「国際花展?」
「はい。花関係の仕事をしている企業が集まっての展覧会です。そこで商談が行われたり、一般客に珍しい花を見て貰ったりするイベントです。今回でまだ二度目らしくて、認知度は低いですけどね」
確かに、花好きだけど聞いたことがない。まだ二度目なら、無理かも。一般客も入れるなら、是非行ってみよう。
「ありがとうございます。教えていただいて」
「どういたしまして」
倉庫を後にして、社員さんに聞いてみる。
「国際花展って明日、東京プレジデントホテルであるのですか?」
パソコンを打つ手をとめて答えてくれる。
「そうなの。でも、近いけれど数が多いので、今回は業者に配達を頼んでいるのよ。だから、私達は何もする事がないの」と言うと机の引き出しを開けて、ゴソゴソと何かを探している。
「はい、これ」と華にチケットを手渡す。
見ると「第二回国際花展」と書いてある。
「これさ、東京プレジデントホテルの人から大量に貰ったから使って」
「いいのですか?」
「やだ。大げさに。元々無料だから。このチケットは、お楽しみ抽選券よ。会場の中に箱があるから、そこに入れておけばイベント後に粗品が当たるのよ。大した商品じゃないから期待しないで」と笑う。
「前回、行かれたのですか?」
「ええ。せっかくチケット頂いたしね。ずらっと珍しい花が並んでいるだけよ。あ、でも大木さんは花が好きだから、楽しめると思うわ。私にはマニアック過ぎるかな」と肩をすくめた。
「ありがとうございます。明日、行ってきます」
一つ楽しみが増えた。
働きだしてから、小さな事かも知れないが、楽しみが増えた。
会社帰りの寄り道や、お昼のランチ、倉庫へ花を見に行くこと、会社の人との何気ない会話、取引先への配達も楽しい。
結婚してから数年間、あの家で一人ぼっちだったので、小さな世界の中で生きてきた。たまに、昼間に都内に出てきてショッピングをしたりもしたが、それは最初だけで、すぐに行く気力さえなくなっていった。
それはショッピングしていても楽しくなかったからで、どうしても夫の給料で自分の物を買う気はならないし、嬉しくもない。
子供でもいれば、その親同士の付き合いもあるだろうけど、子供のいない家庭は、なかなか付き合いも難しく、次第に外にも出なくなった。
一日中、誰とも話さない日が数日続き、自分でもヤバイと感じて、花や観葉植物に力を注ぐようになった。
彼等は生きているので、優しく語りかけてあげると生き生きしてくるし、手をかければ応えてくれて、それが唯一の心の拠り所となっていった。