今ならやり直せる
働くのは五年ぶりだが実際働いていたのは、たった一年だけで、とても会社の役に立ったとは思えない。

大学を卒業し、特にやりたいこともなかったので適当に事務職で就活した。
自分で言うのも何だが、まずまずの大学は出ていたので、世間で言う有名企業に就職できた。

その企業の仕事内容や経営理念など全く興味もなく、ネームバリューだけで選んだ会社だった。
就職してから、意味のない長い研修期間を得て、一般事務職として配属された。

研修は、会社の沿革や各部署の事業内容の説明、ビジネスマナーやコンプライアンスについてなど、事務職には関係のない退屈な内容で、これがいわゆる“大企業の無駄”という部分だと確信した。

就活をするときに、ネットで色々なことを調べたが、大企業で働くと無駄なことばかりが多いという記述があったのを覚えている。

ファックス一つ送信するにも、ファックス送信表を作ったり、企画会議でも資料を膨大に作成したり、その為、中小企業で効率よく働く方が無駄な労力を消耗しないとも書かれてあった。
しかし、給与面や福利厚生を考えて、何の興味のない大企業に就職したのだ。


やっと研修期間を終えて、事務職へと配属になった。
その部署は女性が多く、四十人ほどが働いており、男性は三人。
そのフロアーの向こうは衝立が一つしてあり、営業の男性が五十人ほど働いていた。

仕事内容は、営業の男性が発行する受注伝票をパソコンに打ち込んでいく仕事で、その伝票内容が系列の工場に反映され、発注した商品が発注先に届けられる仕組みであった。

商品とは、精密部品で、小さな物はネジ、大きな物は何千万円もする工場で使われる機械である。
会社の商品など全く興味が無く、ただ、品番を打ち込んでいくだけなので、どんなものが売れているかなど学ぼうとも思わなかった。

研修で一通り、どんな商品を扱っているかを見せられたが、実生活に関係のない物ばかりで、睡魔が襲ってくるばかりだった。

あの何十人の営業の男性達も、本当にあれらの商品に惚れ込んで売りさばいているのだろうか、それとも仕事だから仕方なく営業しているのだろうか、そう思うと、やはり本当に好きな仕事に就くべきだったと少し後悔する。

華は、昔から名前の通り花や草木が好きで、部屋にはいつも季節の花を飾っていた。これは母親の影響で、娘に華と名付けたのも理由の一つだった。

小さい頃から、道ばたに咲いている花の名前や特徴を子供に聞かせ、分厚い植物図鑑を与えていた。
華はその植物図鑑を持って、近くの河原や、公園の花壇に行き、本に載ってある物を見つけるのが大好きだった。
その為、就活をするときに、花や観葉植物を扱っている会社を探したが、どれも中小企業で、何となく諦めてしまった。

もし、今、花や草木に囲まれて仕事をしていたら、どんなに楽しかっただろうと後悔していた。
この数字の羅列の伝票も、花の名前や植物の名前なら、どんなに楽しかっただろう。今、こんな花が売れている、この季節にはこんな植物が売れていると思い仕事が出来たら、幸せだっただろう。
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