今ならやり直せる
「どうして、こんな時に呼び出すかなー」と他のスタッフに文句を言うと

「だって、柴田さん、ご指名ですよ。僕たちが行ったら怒られますよ」と拗ねる。

「参ったな。ありがとう。で、何?」と面倒くさそうに言う。

「加湿器です。ちなみに1002号室です。」

「わかった」と言って備品室に行き、加湿器を持ち、1002号室へ行く。

ノックすると扉が開き「つーちゃーん!!」と首に手を回して抱きついてくる。

「帰ってたのか」加湿器をセットしながら聞く。

「久し振りなのに、素っ気ないね」口をとがらせている。

「いつまで居るんだ?」コンセント差しスイッチを入れる。

「えーと、来週の水曜日。だからディズニーランドに連れて行って」

「お前、彼氏とか居ないのか?彼氏に連れて行って貰え」とカーテンを開けながら言うと

「いじわるだね。つーちゃんのこと、好きな事、わかっているくせに。つーちゃんも彼女いないんでしょ?もういい歳なんだし、私と結婚しようよ」と制服の袖を引っ張る。

その手を制して

「若葉(わかば)、お前は妹のようなものだ。恋愛感情はない。何度も言っているよな。それに、ホテルの従業員を困らせるんじゃない」とたしなめる。

「ケチ」

この会話は飽きるほどしている。

若葉は、両親が友人同士で、小さい頃から色んな所へ遊びに行ったりした。五歳年下で、妹のように面倒を見てきた。

お嬢様で、わがまま放題育っており、自分の手に入らない物はないと思っている。唯一、手に入らない物は剛だけだった。

両親は、海外でビジネスをしており、数年前に拠点を日本からアメリカに移した。その為、日本の家を引き払い、アメリカに家を購入した。

日本には、年に二度程帰国し、書類上の手続きや、ビジネスで十日程滞在し、再びアメリカに帰る生活をしている。

両親は、仕事の為、時間をもてあました若葉は、いつもその間、剛のホテルに滞在する。両親も、剛が居ることで安心しており料金も全て親が払っている。

ホテルに来ると必ず剛を指名して、食べ物や備品を持ってこさせては、暇つぶしをし始めるのだ。

他の従業員が変わりに持って行くと

「つーちゃんが持ってこないなら要らない」と言い、それが三度ほど続いてからは、剛が居ないときは必ず呼び出しがかかるようになった。

今回も、それで連絡があったのだ。

「まったく」と溜息をつきながらホテルの廊下を歩く。

ふと思い出し、スマホを取り出してメールする。

「さっきは突然帰ってすみませでした。今週末、植物園に行きましょう!最寄り駅を教えてください。迎えに行きます!!」と書いて送信する。

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