今ならやり直せる
久しぶりにオフィス街へ足を運んだ。
その派遣会社は、駅前のビルに入っており、迷うことなく辿り着くことが出来た。

こんなスーツ姿になるのも懐かしく、それにオフィス街を歩いている同い年くらいの女性を見ると、ワクワクした気持ちになる。

面接では就活で聞かれたような抽象的な質問はなく、とても直接的なことばかりでスラスラと答えられた。
条件的には、土日祝が休みで、フルタイム、事務職、時給にはこだわらないが、なるべく家から近い場所が良いと伝えた。

この条件ならすぐに紹介できますと言われ、その場で、いくつかの企業の資料を見せて説明してくれる。
どこもメジャーと言われる会社で、条件的にも遜色なく、一番家から近い所を希望した。

「それでは、二、三日中にご連絡いたします」と言われてオフィスを後にする。

お昼休みの時間なのか、ビルからゾロゾロと人が出てきて、その懐かしい感覚を思い出す。
結婚してから、いつもお昼は昼ドラを見ながら一人で食事をしていたので、話し相手もおらず、このまま年を取っていくのかと思うと気が遠くなった。

仕事が出来るという喜びよりも、誰かとたわいもない話が出来ることが嬉しい。

学生時代の友人達は、まだまだ青春を謳歌していて、たまに食事に誘ってくれたが、平日の夜は夫が居るため、なかなか出られず、旅行なんてもってのほかだった。

もう夫は自分に興味もないので遊びに行っても何も言わないが、夫のお金で食べに行ったり、旅行に行ったりする感覚が、どうしても後ろめたくて遠慮してしまっていた。

言葉にしなくても「俺の金で遊んでいる」と思われてしまうのではないかと、卑屈になっていた。
家のお金は夫が管理しており、生活費を渡されていたが、その他のお金の使い道は知らないし貯金額も知らされていなかったが不満はなかった。
でも、やはり生活費から自分の物を買ったり、遊ぶ事につかったりするのは後ろめたいものだ。
もし、自分で働けば、そのお金は自由に使えるし、そうなると堂々と出掛けられると思い、その点でも働きたかった。

夫に「働きたい」と話したときも、特に反対もせず無表情で「いいんじゃない」と発しただけで、どんな仕事がしたいのか、どこへ行くのか、どうして働きたいのかなどの会話も続かなかった。
予想はしていたが、がっかりしたのを覚えている。

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