今ならやり直せる
公園に出ている屋台のクレープを買って、ランチの変わりにする事にした。

とても食欲は湧かないし、思ったよりもショックを受けている自分にも驚いている。

鳩が集まって、何かをついばんでいる様子を見ていたが、一気に鳩が飛び去ったので顔を上げる。

そこには、さっき剛君と一緒にいた女性が立っていた。

「あなたさ、つーちゃんの何なの? 付き合っているの? いつから?」

と矢継ぎ早に質問され

「あの、どちら様ですか?」と聞き返す。

「つーちゃんの……、そうね、婚約者みたいなものね」

婚約者と聞いて、さっきの態度に合点がいく。

「剛君とは何もありません。会社同士で取引があるだけです」

自分の気持ちは知られることもないし、実際彼女でもないし、何の関係もない。

「嘘つかないでよ。つーちゃんの事、好きなんでしょ?」

痛いところをついてくる。

「いいえ。ただの友人です」

「いるんだよね。友人とかいって、つーちゃんをそそのかす人。あなたみたいな地味な人が、一番怖かったりするんだよね。何かたくらんでいるんでしょ?」

黙って聞いていたけど、このままでは埒があかない。

もう言ってしまおう。

「私、結婚していますから」

女性はその言葉を聞いて驚いていたようだが、それで納得するどころか、余計に焚きつけてしまった。

「は!? あんた、結婚していて、つーちゃんに近づいているの? 図々しい女ね。冗談じゃないわよ。不倫じゃ
ない。そんなややこしい事に、つーちゃんを巻き込まないで。だいたい、結婚してようが結婚してなかろうが、あんたとつーちゃんは釣り合わないんだよ。金輪際、つーちゃんに連絡しないで」

鎮火しようと思ったのに、油に火を注いでしまった。

でも、これで良かったのだ。いつかは言わなくてはいけなかったので、これで剛君も何も言ってこないだろう。

もし、この先、剛君と私が何かあれば、もうとめられなくなっていたし、あの女性が言うようにそれは不倫で、そんなことに巻き込んではいけない。正論だ。

これで諦めがつく。

女性が去った後、再び鳩たちが戻ってきて、エサをついばんでいる。

さっきの出来事が嘘のように元の世界に戻っている。本当に嘘であったら良かったのに。


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