今ならやり直せる
剛は、ホテルの事務室で資料を読み込んでいる。

真剣に仕事をやり出してから、色んな事に興味が出てきた。

当初、この仕事は好きではなかった。皆のように、自由に仕事を選びたくて、一度は違う業界に行ったが、心境の変化があり舞い戻ってきた。

今では、真剣にこの仕事に取り組み、様々な部署を経験し見てきた。

でも、まだまだ勉強することがたくさんあり、この仕事の奥深さを感じる。

時々、華ちゃんの事を思い出して心配になる。

連絡をしようと何度か考えたが、既婚者だと逆に迷惑になってしまうし、旦那さんにやりとりを見つかったら大変だと思って出来なかった。

ホテルに花を配達に来る人はいつも違う人ばかりで、いつか華ちゃんが来たら、普通に挨拶しようと思っているのに来ない。

それに、最近違う部署に行っていて、フロントにはいなかったので、会う機会も失っている。

元気でやっているのだろうかと考えていると、華ちゃんと同じ会社の人が、花の配達にやってくるのが見えた。

すぐに駆け寄って声を掛けた。

「あの、創花園(そうかえん)の方ですよね」

「あ、はい」

「大木さんはお元気ですか? 最近、配達に来られないので」

女性は少し不思議な顔をしながら

「大木?」と考えている。

「ほら、髪がボブで、身長が百六十位で、細くて色が白くて、派遣の女の子」という剛のヒントにピンと来たようで

「それ、三島さん?」

「三島?」不思議そうな顔をする剛に向かって

「あ、私も同じ派遣会社から来ているのですが、三ヶ月前からなのでよくわかりませんが、創花園で派遣として働いているのは、私と三島さんだけです」

剛は状況を理解し

「あ、そうそう、勘違いしていた。三島さんだよ。彼女元気?」

「元気ですよ。いつも優しく私に仕事を教えてくれます」と微笑む。

「あ、そう。そりゃ良かった。ありがとう」自分でも動揺しているのがわかる。

彼女は軽くお辞儀をして去っていった。

華ちゃんは、離婚をしている。

俺のせいかもしれない。俺が、焚きつけたから。責めたつもりはないが、そう捉えられたとしてもおかしくない。

夕方まで待って、すぐにホテルを出た。

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