今ならやり直せる
今日の剛君の言葉を思い出す。

「俺と結婚前提に付き合ってくれませんか?」

結婚前提と言ったけど、その後、冗談で終わらせたまま、それについて触れなかった。

普通の付き合いと、結婚前提の付き合い、どう違うのだろう。

普通の付き合いも、先々結婚を見越しているのではないのか、それもお互い二十代後半で、結婚を意識する年齢でもある。

わざわざ結婚前提と言うところが、剛君の誠実さの表れなのだろうか。

普通の付き合っても、長年結婚しないカップルもいる。ということは、結婚前提というのは、近いうちに結婚しましょうということなのだろう。

現実味はないが、そう言ってくれたことに関しては、これ以上嬉しい物はない。

一度結婚に失敗すると慎重になり、幸せなら籍にはこだわらないと思ったが自分は良くても、剛君は初婚だ。

自分の都合だけで、進めることは出来ない。

「結婚か……」

剛君と結婚できるならば、こんな幸せなことはないけれど、経験者だからわかっている結婚の煩わしさも知っている。

剛君と一緒に生きていくだけではない。その家族、兄弟、親戚、全てが芋づる式についてくるのだ。

前の夫の時は、義父は無くなっていて義母のお世話はしたが、良い人で恵まれていたと思っている。兄弟もなく親戚付き合いもなかったので、気楽と言えば気楽だった。

義母が亡くなった後は、誰とも接することもなかったし結婚式さえ挙げていないので、顔合わせもしていない。

よく、同級生から嫁、姑の話や、親戚の愚痴を聞いていたし、少し不安になったが、剛君の性格を見ていたら、悪い人はいないのではないかとポジティブに考えた。




剛は車を走らせながら、ついに結婚前提のお付き合いの話が出来て内心ほっとしていた。

去年、初詣の話が出たときから来年は必ず言おうと心に決めていたからだ。

華ちゃんと再会して半年、華ちゃんが離婚して一年。この辺りが節目だと思っていた。

それに、華ちゃんと一緒に過ごす時間は癒しであり、今までの女性とは全く違う。

若い頃は、女の前ではとにかく虚勢を張り違う自分を演じ、口説き落とすことだけ考えていた。

相手が何を思っているか関係なく、自分を押しつけ全て自分のペースで行動してきた。

なかなか、付き合いたいと言い出せなかったのは、次に付き合う人とは結婚したいと思っていたし、今度は自分の
ペースだけでなく、相手のペースも見て同じ位置に立ってから、お互いわかりあいたいと考えていたからだ。

女と寝ることを優先にして気持ちを無視してきた自分が、今は一番に心が欲しい。身体なんてどうでもいい。

華ちゃんの心が全部欲しい。

徐々に華ちゃんが自分の方を向いているのがわかった時、どんな女性を口説き落としたときより嬉しかった。既婚者だと知ったときはショックだったけど、華ちゃんへの気持ちが変わることはなく、旦那さんから奪おうかと思ったくらいだ。

でも、そういう強引な生き方はやめたので思いとどまった。そんな強引なことをしても、誰も幸せにならない。ひとつひとつ解決していけば、どんな問題も解けるのだ。

何でも強引に物事をすすめてきた自分が学んだことだった。

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