今ならやり直せる
夫と寝室のベッドは別々で、シングルベッドを二つ、少し間隔を開けて並べてある。

新婚当初はダブルベッドに憧れたが、今ではそれにしなくて良かったとホッとしている。
結婚してからセックスレス状態が続いている。

相手はもう枯れ始めている年齢なのでいいのだが、私はまだ二十八歳だ。女にだって性欲はあるし、欲求不満にだってなる。

でも、もうこの人には抱かれたいとは思っていない。ただ、このまま女として終わっていくのは耐えられない。きっと、年齢では無いと思う。

男性で高齢でも、いつまでも性欲の強い人もいるし、夫はただ、私を抱く気がないだけだ。

夫には抱かれたくないが、誰かに抱かれたいと思っているのは確かだった。好きな人が欲しいわけではなく、女としての存在価値を認めて欲しいのだ。



派遣会社に登録した翌日に電話があった。

希望の会社で働けることになり、学生から就職したあの時よりも、やる気が湧いてきた。

その会社は上場企業ではないが知名度のある草花の卸の会社で、インターネットで一般のお客にも販売していた。
元々、興味のある分野の会社で、ここの通販サイトも何度か利用したことがあり、以前、注文した観葉植物は、品質も良く、数年経った今でもリビングで青々としている。

注文をした後も、もし枯れたらこうやって手入れしましょう、何センチより大きくなったら鉢を入れ替えましょうといった内容のメルマガも楽しく拝見していた。

案内された新しい職場は、流石に草花を取り扱っている会社らしく、緑がたくさん飾られており、花瓶にも綺麗な花が生けてある。

壁には押し花や、ポプリもセンス良くコーディネイトされている。
以前の会社は、無機質で殺伐としていたので、こんな温かい雰囲気の場所で働けるだけで幸せだ。

前職で行っていた業務に近い仕事内容で、ネットで注文された受注伝票を、倉庫に連絡するために、商品名を打ち込んでいく仕事だった。

同じ仕事でも、花の名前やフラワーコーディネイトの指示表を見ているだけで、幸せな気分になる。

個人の注文だけではなく、企業からの定期的な配達も多く、そこには大企業の名前がズラリと並んでいた。
会社の玄関や、オフィスに飾る観葉植物のようだ。これらにお金を掛けられる会社は、余裕があって羨ましく感じる。

パソコンに向かう仕事は一日中ではなく、取引企業への定期的な配達も手伝うことになっていた。
配達と言っても大型の物は業者が行っており、近隣のホテルの結婚式場に頼まれたブーケや、パーティに使用する花束を持って行ったりするのだ。

仕事の内容を聞いて、これなら自分にも出来るかもと少し自信が出てきた。
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