日帰りの恋
「ん?」

 ふと、違和感があった。

「シートベルト、きちんと締めなさい。高速にのるよ」
「あっ、はい」

 慌ててベルトを装着しながら、違和感のわけを探る。

 動き出す車の微かな振動に揺られ、じんわりとわかってくる。住宅街を抜け、県道を経て国道に出る頃、それははっきりした。

(そうか、何もないんだ)

 車内には余計なものを置かず、飾らず、さっぱりしている。ダッシュボードやドアポケット、そっと覗き見た後ろのシートもそう。きれいに掃除したみたいにガランとしていた。

 振動に揺れるものも、音を立てるものもない。


 私はひそかに、自分の軽自動車の内部を頭に浮かべた。

 縫いぐるみとか、クッションとか、ティッシュの箱とか、小物を詰めたボックスとか、いろいろ積んである。
 ごちゃごちゃしすぎで、友達を乗せようとすると、座るスペースを空けるのに大変だったりする。



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