日帰りの恋
「ほう、戸部山動物園か。そいつは専務がデザインを手がけてた頃のレア物だな。そうそう、今はコアラがマスコットキャラクターだけど、前は象だった。……ひょっとして、今でも実家にあるとか?」

 神田さんは期待に満ちた目で私を見つめている。

「かなりボロボロですけど、持ってますよ」
「えっ、本当に?」
「はい。実家ではなく、アパートにあります。時々取り出しては眺めたりして」
「アパートに持って来てるのか」
「ええ、大切な宝物ですから」
「宝物……」

 木漏れ日がきらきらと光る、きれいな道。
 神田さんはまぶしそうに瞬きすると、ちょっとぎこちない感じに前を向いた。

「そうか、宝物なんだ」
「はい」

 私達はそんなやり取りをして、たくさん笑った。
 仕事絡みの話ばかり。
 なのに、こんなにも楽しくさせてくれる彼は何者なんだろう。

 わからないまま、幸せな時間を過ごした。
 日帰りであるのが、惜しいくらいに。
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