日帰りの恋
 慣れてるから――

「あの、それはどういう……」
「ん? ちょっと待ってくれよ」

 彼はブレーキを踏み、車を停止させた。

「きゃっ」

 がっくんと身体が前のめりになり、ダッシュボードに手をついた。
 神田さんらしからぬ急停止だった。

「参ったな。見つかっちまった」
「は、はい?」

 参ったと言いながら、なぜか満面の笑みを湛える神田さん。
 彼の視線をたどると、誰かが畑の中を駆けて来るのが見えた。こちらに手をブンブンと振っている。

「あ、あの方は一体?」

 神田さんは窓の外に大きく身を乗り出し、手を振り返した。

「おう! 元気そうだなー、キューちゃん!」

 かつて耳にしたことのない大きな声、そして素朴な響きだった。
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