日帰りの恋
 結婚――?

 彼の衝撃的な発言を、神田さんは否定しなかった。
 ただ満面の笑みを湛え、とても嬉しそうにして……黙っている。

(そういえば、私のことを『真山妙子さん』と紹介しただけで、部下とは言わなかった。それも、妙な間を空けて?)

 私は神田さんを責めるように凝視した。

 どうして真山はただの部下だと言わないの?
 ていうか、職場の皆にも私とドライブに行くことを黙ってましたよね。
 遠山さんにも、同僚にも、本当のことを告げたらいいだけなのに。

 あなたの態度は謎すぎです。
 何を考えてるのか、サッパリ分かりません!

 訊きたいことが喉元まで一気にせり上がってくる。
 でも、さっきの衝撃が強すぎて、私は口を利くことができなかった。

 このドライブは仕事のはずなのに、どうして……

「それじゃ、またなキューちゃん」
「ああ、お幸せに!」

 わけが分からないまま、車は再びあぜ道を走り出した。
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