日帰りの恋
 ひと目ぼれの極み。
 神田さんに出会った瞬間、私は恋に落ちていた。

 だけど、本人はもちろん、周りの誰もこの気持ちを知らない。

 というより、彼の言葉どおり、この一年は仕事を覚えるのに大変で、面白くて、恋愛感情を表に出す余裕がまるでなかった。

 上司と部下。
 それ以上でもそれ以下でもない、淡々とした関係のまま、社会人一年目の四季を過ごした。


 それなのに――


「5月の連休に、ドライブしないか」

 残業で居残っている私を、仕事の話でもするような調子で神田さんは誘ったのだ。
 いつものように夕刊片手に、締めのコーヒーを味わいながら。

 フロアには誰もおらず、ほとんどのライトが消されたシンとした空間に、その台詞は嘘のように響いた。


 嘘だと思った。
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