日帰りの恋
「真山に惹かれたのは外見ばかりじゃないよ。あの印象的な自己紹介だった」
「自己紹介……」

 出社初日の挨拶だ。
 私は頭の中に、あの日の光景を思い浮かべた。

「子どもの頃からご当地グッズやトモロウの製品を好きだという君に共感した。俺にとっては最も魅力的な発言だったよ。とにかく、あの日から俺は君に夢中になった。仕事を教えたのは主に江口さんだけど、俺は彼女よりもずっと君のことを気にかけて、隙あらば……じゃなくて、その、困っていそうな時はすぐに面倒を見るようにしたんだ。つまり……」

 溢れる想いが伝わってくる。私のことを、こんなふうに想ってくれるなんて、想像もしなかった。

「君に恋して、この一年を過ごした。本当に、充実の一年だった」

 恋。

 神田さんが口にする奇跡のワードに感動しつつ、私は彼と初めて会った日をさらに回想する。

 ――覚えることが山ほどあって大変だけど、充実した一年を過ごせるよ。

 ぼうっとして、神田さんに見惚れた私。だけど、彼の言葉に引っかかってもいた。なぜ一年と限定するのかなと、不思議に感じたのだ。



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