日帰りの恋

「私と、ですか？」
「他に誰かいるかな」

　ラフな口調。
　ユーモラスな仕草でフロアを見回してみせる主任は、仕事中の主任ではなかった。

　まさか、プライベートで誘っているのだろうか。


「で、でも……」
「3日なんてどうだ。予報では晴れマークだし」

　私のデスクに回り込み、夕刊を広げる。週間天気予報の欄を指差し、肩を寄せてきた。

「……」

　神田さんの体温と、匂い。
　二人きりでいるのを急に意識し、私は身を硬くした。

　いつになく強引な態度に、何を言われても逆らえない気がした。

　逆らうつもりなんて、なかったけれど。

「あ、はい。大丈夫です……」

　相変わらず、彼氏もいない私。
　学生時代の友達とは映画を観に行く約束をしていたが、別の日だった。

　小さな声で、私は承諾していた。その時は、実感もないままに。

「それじゃ、3日の朝、君のアパートまで迎えに行くよ。ドライブの行き先は……そうだな、希望があれば言いなさい」
「いえ、特には」
「なら、俺が決めるよ」
「は、はい」