くちづけ~年上店長の甘い誘惑~
――あの夜を忘れたと、あなたはそう言いたいのですか?

――僕を覚えていない、と言うことですか?

――あなたの泣いている姿はもう見たくない

私は藤岡さんに会っていた。

彼が言った“あの夜”は、婚約破棄されたその日の出来事を指差していたんだ。

「ご、ごめんなさい…。

何も覚えていなかったどころか、忘れてしまっていて…」

全てを理解してそう言った私に、
「酔っ払うと記憶が飛ぶと言う話は、どうやら本当だったみたいですね。

今後はお酒を控えることを勧めます」

藤岡さんが言い返した。

「は、はい…」

私は返事をすることしかできなかった。

「でも…」

藤岡さんはそう言って、私の頬に手を当てた。
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