TUBASA ~つばさ~
「君の彼氏は自らガラスの靴を割ってしまったんだね」


光さん....。

もはや驚かない。


「ここは僕のお気に入りの場所なんだ。放課後たまに来るんだけどね」


だから、君をストーカーしてたわけじゃないよ。


笑いながら光さんが言った気がした。



意識がもうろうとして、言葉が入ってこない。



「平気?立てる」


そう言うと、光さんは私のからだを抱き起すと、屋上の端の手すりへと連れていく。


都会には及ばない街並み、その先に広がる海。



「僕はこの景色が好きなんだ」


「.......」


「鳥になれたらいいのにね。時々、むしょうに自由に空を飛んでみたくなる」


光さん....?


風が彼の髪をなでる。

うつろな目で遠くを見つめている。


「ここから、飛んでみたい....」


「.....光さん?」


「君はそんな衝動に襲われること無い?」


「.....今はそんな気分です」



「辛い経験をしたね」



思いもよらない優しい言葉に、再び涙がこぼれてきた。


景色が滲む。



「我慢しないで、思いっきり泣いたほうがいいよ」



光さんは私を抱き寄せる。



今日はこの人の胸に思いっきり甘えていいよね。



私はそう思った。

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