あと一欠片のピース




それを流れるような動作で拭った蒼馬くんが、ぎゅう、とわたしを抱きしめた。



「うわっ、ちょっと」


「今、自分の腕の中に今宵がいるのが信じらんないから、ちょっとだけでいいからこのまま触れさせて」


「……うん」



真尋が死んでしまったことは、わたしと真尋が同じ人を、蒼馬くんを、好きになってしまったことが少なからず関係している。


だから、蒼馬くんが始まりだったから、真尋のことだけでなくて、蒼馬くんのことも忘れてしまっていたのだろう。


またわたしだけ楽になろうとして忘れてしまったことで、蒼馬くんは辛かっただろうに。


それでもわたしを好きだと言ってくれる。


好きを続けたのだと教えてくれた。


それがどんなに幸せなことか。


そこまで想われているひとは世界中にそう多くはないかもしれない。


それを噛み締めて。



「蒼馬くん」


「ん?」


「ずっと好きでいてくれてありがとう」



彼の背中に腕を回す。




「わたし、蒼馬くんのことが好きです」




恥ずかしいながらも頑張ってそう告白すれば耳元で「ぶっ、なんで敬語なの」と笑われた。



「い、いーの!」


「はいはい。……ねえ、今宵」


「何?」


「顔見たい」


「えっ、やだ!!」



きっとでれっとした顔をしているだろうから、顔を見られまいと彼に、ぎゅう、としがみつく。




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