あと一欠片のピース
いいよ、おいで、というつもりらしい。
でも自分からは動かなかった。
だって、悔しいから。
それだけ。
「しょうがないな」
直立不動のわたしを、蒼馬くんが抱きしめた。
そのあたたかさが、視神経を刺激した。
「泣くなら俺の前だけにして。そんな垂れ流して来ないで」
またそんなこと言ってくれるから、目が開けられなくなった。
背中をさすられる。
困ったことに、嗚咽が漏れて、どうしようもなくて。
その涙につられるかのように晴れているのに空から雫が落ちてきて。
なんだか尚更泣けてしまった。
真尋に会えないことは一度覚悟したのに。
少し会って話しただけで、希望が捨てられなくなって。
記憶がなかった時、どんな風にして生きてきたのだろう。
今では、思い出すことができない。
しばらくして、蒼馬くんが小さくつぶやいた。
「こんな今宵、あいつは見たくないと思うんだよな」
「……っ」
蒼馬くんのいうことに一理ある。
なぜなら、真尋はわたしよりも何倍も可愛いくせに、わたしの笑顔が好きだとずっと言ってくれていたから。
「可愛い顔が台無し?」
「ばーか、自分で言うな」
涙を拭きながら、頑張って調子にのってみれば蒼馬くんに吹かれた。